バティック(ジャワ更紗)とは?バティックの歴史と制作工程について


バティック(Batik)とは、ろうを使って防染ぼうせんするろうけつ染め(臈纈染ろうけつぞめ)によって模様が染められた布地の全般を表し、2009年にはインドネシアのバティックがユネスコの無形文化遺産に登録されています。

インドネシアのジャワ島で作られるバティックは有名で、ジャワ更紗とも呼ばれます。

バティック(Batik)という言葉の由来は、インドネシアのジャワ語で「書くこと」を意味する「アンバー(amba)」と「点を打つ」を意味する「ティティック(titik)」を組み合わせたもので、「点を描くこと」を意味していました。

インドネシアにおけるバティック(ジャワ更紗)の歴史

インドネシアにおいて、インドから入ってきたろうけつ染めは、農業の合間に女性たちが織った手紡ぎ木綿の上に行っていましたが、のちに王宮内の女性の間でも行われるようになります。

ろうを置く道具として、最初竹の棒が使われていましたが、竹の棒だと長い線をなめらかに引くことが難しいため、銅製や真鍮しんちゅう素材で、容器に細い口がついたチャンチン(Canting)と呼ばれる道具が使用されます。

Canting チャンチン

Canting チャンチン,HarfiBimantara, CC BY-SA 4.0 , via Wikimedia Commons,Link

チャンチンは、ろうが出てくる口の太さや数の異なるものが作り出され、細かい点描てんびょうやなめらかな線が描かようになったのです。

インドネシアにおいて、オランダの植民地時代、中部のジャワで強力な勢力を誇っていたスラカルタ王家は、実質的に政治権を奪われ、王宮内では伝統的芸能が盛んに行われるようになり、女性たちは、儀式や踊りの衣装作りにいそしみ、格調高いバティックや印金いんきん、絞り染の布が生産されました。

19世紀初頭、イギリスがジャワを短期間の間、植民地として統治していた時代には、量産された薄手で軽量の綿または亜麻の布であるカンブリックcambric(キャンブリック)が輸入された影響もあり、繊細な文様が描けるようになりました。

量産用の銅製の押型チャップが作られ、中国から移住してきた華僑かきょうがジャワの北岸地域やスマトラ島のパレンバン(Kota Palembang)、ジャンビ(Jambi)に工場を作り、バティック生産は大きな飛躍を遂げました。

バティックに描かれる伝統文様

バティックに描かれる伝統的な文様は、ヒンドゥー教やイスラム教、中国文化などさまざまな影響を受けていたため、非常に多彩です。

ヒンドゥー教の影響としては、神々が住む霊山であるメルや寺院、ヴィシュヌ神の乗り物であるガルーダなどがあります。

これらの模様を一面に配した文様は、スメンと呼ばれます。

文様のテーマとしては、古典的な文様と外来の文様があり、イスラム教文化の影響としては、アラビヤ文字や唐草文様からくさもんようがあります。

中国文化の影響としては、中国人が仏教や儒教じゅきょうによる宗教布を注文したことから、慈悲じひの神であるフェニックスや雲、庭園、卍などが描かれようになりました。

このほかにも代表的な文様にS字形を斜めに連続させるパラン、うろこを表すグリンシン、七宝繋ぎのカウン、点滴文のニティックなどがあります。

バティックの文様構成

バティックの文様には、基本的な構成がいくつかあります。

  • 一面に連続文様を描いたもの
  • 布の中心で斜めに二分し、左右で地文様を変え、主文様の花の開閉に差をつけたパキソレ(朝と夕)
  • インドのパトラに類似するクパラ・クモド・バダンと呼ばれる三つの文様部分で構成するもの
  • 布の中央部をダイヤ形、または短形の別文様で配するもの

バティックの用途

バティックは、民族衣装である腰巻きや腰衣、ズボンや胸当て、肩掛けや頭巾ずきんなどに用いられます。

腰巻きのなかで、2枚の布を縫いとじた幅2.5メートル、長さ4.5メートル余りの大きな布は「ドドト」と呼ばれ、王や王家の子女が特別の祭儀や古典舞踊の衣装として着用されてきました。

バティックの制作工程

インドネシア中部のジャカルタやスラカルタなどでおこなわれていた、バティック制作工程としては、以下のような流れがあります。

①前処理

まず、前段階として、必要な長さに裁断した布を沸騰させたりして精錬してから、糊をつけます。
数日間朝露に当てることで、程よい湿り気を与えた後にきぬたで打ち、布目をそろえてなめらかにします。

②下絵描き

文様の輪郭りんかくや配置の線を、鉛筆で描きます。

③蝋置き

ろうは、蜜蝋みつろう木蝋もくろう樹脂じゅしなどを混ぜたものが使われます。

線描き、地文様、面伏せなど使用目的によって、ろうの作り方を変え、チャンチンを使い分けながらろうをおいていきます。

④藍染め

インドネシア中部のジャカルタやスラカルタのバティックは、藍色と茶色の組み合わせが特徴的です。

藍色と茶色に白色を加えた三色は、ヒンドゥー教によるウィヌス神、シヴァ神、ブラフマ神の三位一体さんみいったい信仰を表わすとされていました。

藍色を染めるためには、古くは天然の原料を使用した藍染が行われていましたが、現在では、ほとんどが合成藍(インディゴ)やナフトール染料を使用した染色が行われています。

⑤蝋落としと蝋置き

ろうで防染していない部分を藍色に染めた後、茶色に染める部分のろうを削り落とし、藍色を残したい部分にろうを置きます。

茶色を染める「ソガ染め」は、コウエンボク、コヒルギ、カカツガユを主体に、スオウ、プルの花、サトウキビなどを加えたあと、数回にわたってせんじ、全てを合わせて染液とします。

使用する際に、一度煮立てた後、少し冷ました液に布を漬け、数日間浸染しんせんと乾燥を繰り返していきます。

⑥媒染

染めたあと、色素を定着させるために、ミョウバンや椰子やし砂糖(パームシュガー)、カカツガユの心材しんざい、レモン汁などに水を混ぜた液を煮出し、煮沸しゃふつした液に布を入れて煮ます。

この作業は、同時に脱ろうも兼ねられ、仕上げに熱湯に通してろうをとります。

【参考文献】『月刊染織α1986年8月No.65』


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