黄檗(学名 Phellodendron amurense RUPR.)は日本各地の山地に自生するみかん科の落葉高木です。
幹の外皮は厚く、外皮の内側の内皮が黄色いため、古くから黄色を染める染料に使用されてきました。
飛鳥時代の染織品の中で、緑色系のものの多くは、藍染した上から黄檗で染め重ねたものとされています。
目次
黄檗(きはだ)の歴史
平安時代にまとめられた三代格式の一つである「延喜式」には、浅緑を染めるのに黄檗が使用されていたことが記載されています。
日本では、757年に律令国家におけるルールを規制した「養老律令」が施行されましたが、その養老律令の施行細則をまとめた『延喜式(927年)』には、染織物の色や染色に用いた染料植物が詳しく書き残されているのです。
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古く、黄色は位の無い人や、一般庶民が着る色とされていました。
『日本書紀』持統天皇七年条(693年)には、「詔して天下の百姓をして黄色の衣を服しむ」とあったり、平安時代初期に編纂された勅撰史書である『続日本紀(797年)』には、「無位の朝服は、自今以後、皆襽黄衣を着せよ」とあります。
ただ、黄色のなかでも梔子のような赤味のある黄色は、皇太子の服色である黄丹に似ているとの理由で禁色になっていました。
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「正倉院文書」に記載があるもので、染織品に対する調査を通して確認された黄色の染料には、黄檗、苅安、梔子が挙げられることからも、黄檗が活用されてきた歴史の古さがうかがえます。
黄檗(きはだ)の薬用効果
黄檗は、生薬名が、黄柏といい、黄柏の採取は梅雨明け頃に行われます。
含まれる成分のベルベリンには、強い苦味とお腹を整える健胃整腸作用があるため、民間薬では、百草丸、正露丸などの原料にも使用されました。
外用薬としては、皮の粉末に酢を加えて練ったものを打撲に使用したり、煎じた液を眼病の際の洗眼に用いました。
黄檗(きはだ)の染色方法の一例
絹糸1kgを染める場合、黄檗の樹皮(内側の内皮)を細かく刻んだもの500g使用します。
6リットルの水の中に黄檗を入れて、熱して沸騰してから20分ほど煮出して、煎汁をとります。同じように、4回まで液を抽出し、全てを一緒にして染液とします。
染液を熱して糸を浸し、10分ほど煮染したあと染液に浸したまま一晩置きます。
酢酸アルミニウム40g(糸量の4パーセント)を15リットルの水に溶かし、その中に染めた糸を30分間浸して媒染したあと、水洗いします。
染液を熱して80度になったら媒染した糸を浸して、15分間煮染めしたあと、染液が冷えるまで、染めむらにならないように時々糸を動かします。
よく水洗いしてから、日光にできるだけ当たるように拡げて干します。
4回まで煎じた黄檗を再び煎じて、同じように8回まで煎汁をとります。
5〜8回目の染液を熱して、天日に当てて中干しした糸を浸して15分間煮染めしたあと染液が冷えるまで放置し、水洗いします。
以上で、少し茶色味を帯びた黄色に染まります。
陰干しした場合は鮮やかな黄色になりますが、だんだんと茶色く変色するので、一回は太陽の下で天日干しておくのは、堅牢度の観点から重要です。
黄色を染める染料植物
黄色を染める染料植物は、黄檗のみならず、非常に多くの種類があります。
ウルシ科・・・櫨、
アカネ科・・・梔子
ショウガ科・・・鬱金
イネ科・・・苅安、小鮒草
マメ科・・・槐、合歓木、苦参
一口に黄色といってもその色合いはさまざまで、鮮やかな黄色を染めるものは少なく、多くの植物は赤味があったり、茶色味のある色合いになります。
黄檗と似たものにメギ(目木)という植物があり、生薬名は小蘗といい、薬用のみならず、染色にも用いられてきました。
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【参考文献】『月刊染織α1982年7月No.16』