2022年11月にOpenAIによって公開された人工知能チャットボットであるChatGPTは、世界中からの関心を集めました。
それからというものの画像生成AIや動画生成AI、音楽生成AIなど、さまざまな分野での人工知能の発達が目まぐるしく、日々進化しています。
良質なコンテンツが安価で、無限につくられてしまうAIが発達した社会においては、本体の内容(コンテンツ)に付随する付加情報がより大事になってくるとされています。
「だれが作ったか?」という物語の大切さ
お金を使って商品やサービスを入手する消費活動において、「それをだれが作ったのか」という付加情報は、買い手としては消費に影響を与えるものです。
人間は、コンテンツの中身とその付加情報をともに消費しており、実はそれを自覚している人は少ないと考えられます。
何かを生み出す幅広い意味での「ものづくり」においては、「それを誰が作ったのか」がますます大事になってくると、批評家で哲学者の東浩紀氏が著書『訂正する力』にて語っています。
人間は必ずしも質のいいコンテンツに感動するわけではありません。
たとえば子供の絵。ぼくは自宅に娘が小学生のころに描いた絵を飾っているのですが、これには芸術的な価値はまったくないでしょう。
にもかかわらずぼくには価値がある。なぜか。それは娘が描いたからです。
これは難しい言葉で言えば「作家性」ということになります。
じつは人間はコンテンツを消費するとき、その内容だけでなく、「それをつくったのはだれか」といった付加情報も同時に消費しています。それが作家性です。
時には、その付加情報のほうが高い価値を生み出すこともあります。
一枚の絵が何十億円という価格で取引されるアートマーケットは、まさにそのような世界です。
作品だけなら、いくらでも複製できるかもしれない。
しかし、「この絵が、あるとき、あの作家によって書かれた」という事実性は複製できない。
東浩紀(著)『訂正する力』
確かに、誰が作ったかという「作家性」の大切さは、一枚の絵が高額で売れるようなアートマーケットの世界や、自分の子どもの絵を飾るような親の心情を考えると理解できます。
「作家性(さっかせい)」の再発見
人間がつくっているコンテンツで、「作家性」とは無関係に流通しているものはたくさんあり、匿名で売れているものもあります。
ただ、現代人は「ひと」にかつてないほど関心をもっており、あるひとが魅力的だと思えば、多少コンテンツがダメでも平気で金を払うという現象が起こっているのです。
YouTubeなどで活動する個人に、サブスクライブ(定期購読)や投げ銭などをするのも、「この人だから応援したい」という心情が大きく影響していると考えられます。
プロは質を重視しますが、人工知能が活用されてさまざまな分野で良質なコンテンツを生み出されていく結果、「だれがつくった?」という物語が付加されないとある程度以上売れない、お金にならないということが現実として起こってくるとも、東浩紀氏は指摘しています。
「だれが作ったか?」が大きく影響することによってこれまでも物は売れてきましたが、これからのAIが普及した時代には、改めて「作家性」が再発見される(だれが作ったか?によってものの価値が大きく変わる)ことになるのでしょう。
安心感(信頼)を持ってもらえば、応援してもらえる
自己をブランド化させる「セルフブランディング」の活動に熱心な人は、目立つことや賢く見せることに注力しがちです。
ただ、表面上のセルフブランディングは、短期的な視点でみればうまくいくこともあると思いますが、だんだんと時間が経つにつれ粗が目立ってきます。
「あなたが作ったから買いたい」の「あなた」になって応援してもらうためには、誠実に、良いものづくりを継続的におこなっていき、「この人だったら大丈夫」と「安心感(信頼)」を持ってもらうことが大事なのでしょう。
「近代日本経済の父」と称される渋沢栄一は、『渋沢栄一訓言集』の中で、「信用は実に資本であって商売繁盛の根底である」と語っています。
【参考文献】東浩紀(著)『訂正する力』

東浩紀 (著)『訂正する力』 (朝日新書)