藍染された糸

糸を撚る(よる)とは?撚糸(ねんし)における甘撚り糸(あまよりいと)と強撚糸(きょうねんし)の特徴について


1本の糸をつくるためには、1本から複数の糸をねじりあわせることでりをかける作業が必要です。

り」とは、糸をねじり合わせることを意味し「撚糸ねんし」という言葉は、「りをかけた糸」を表します。

糸をることで、丈夫な1本の糸をつくることができるのです。

りの方向には、左り(Z撚り)とり(S撚り)がありますが、一本の糸のみでつくられた単糸たんしは、基本的にZりです。

Yarn twist,左撚り(Z撚り)と右撚り(S撚り)

左撚り(Z撚り)と右撚り(S撚り),PKM, Public domain, via Wikimedia Commons,Link

この糸のりについて考えるのは、すごく重要なことです。

なぜなら、る方法によって、糸の強度、肌ざわりや風合いに大きく影響するためです。

糸を撚る(よる)の強さは、品質にどのように影響するか?

日本には四季があり、暖かい春から湿気の多い夏にはさらっとしたりの強い糸で作った衣類が好まれ、寒い冬にはやわらかくて暖かい甘りの糸が求められます。

糸のりの強さが、品質に大きく影響してくるのです。

糸の強度と撚りの関係性

糸に撚りをかけることによって、強度が高くなります。

撚りをかけることで、繊維がそれぞれ摩擦抵抗し(繊維間の摩擦が大きい)、糸としての強度ができるのです。

ただ、撚りをかければかけるほど良いというわけでもなく、綿糸の場合は撚りの係数が4.0から5.0ぐらいまでが最大の強度で、それ以上撚りをかけると、逆に強度が低くなります。

一般家庭で使われるような標準的な糸は、そのもととなる糸(原糸)に適した撚りがかけられています。

撚りの強さによって、甘撚あまより、普通撚り、強撚きょうねんなどと区別しています。

普通撚りは、普通の織物用の糸として使われますが、甘撚りと強撚の特徴は以下のとおりです。

甘撚り糸(あまよりいと)の特徴

糸の撚りが甘い甘撚あまより糸としては、以下のような特徴が挙げられます。

  • 手触りや風合いがやわらかくあたたかさを感じる
  • 手編みの糸として適している
  • 強撚糸きょうねんしと比べて強度が低い

撚った糸と糸の間に空気がはいる隙間があるので、その隙間が空いているほどフワフワ感は感じられます。

甘撚りは、毛糸をイメージしていただけると、わかりやすいでしょう。

ニットの糸やタオルの糸などは、甘撚りが多いです。

Towel blue decorativepattern closeup

タオル,Towel,User Mike1024 on en.wikipedia, Public domain, via Wikimedia Commons,Link

強撚糸(きょうねんし)の特徴

糸の撚りが強い強撚糸きょうねんしとしては、以下のような特徴が挙げられます。

  • 手触りが固くなりシャリ感を感じる
  • 水気を吸収しやすく、早く乾きやすい
  • 撚りが強いほど、染色の発色が濃く見える
  • 甘撚あまより糸と比べると強度が高い

ニットは甘撚りの糸を使うことが多いですが、夏場のカットソーなどは、強撚糸を使用することで、清涼感にすぐれ、汗ばむ夏場に適した衣類となります。

強撚糸は、クレープ生地用の緯糸や、ボイル生地用の糸にもよく使われます。

ジョーゼットと呼ばれる生地がありますが、緯糸と緯糸のどちらにも強撚糸を使用して平織りし、仕上げに生地を縮ませてシボ感を出した「縮緬ちりめん」織物の一種です。

ジョーゼットは薄い生地なので、春夏用の衣類に主に使用されます。

和装において、代表的な生地の一つである縮緬ちりめんは、経糸撚っていない生糸きいと(絹糸)を使用し、緯糸に強撚の生糸きいとを用いることで、生地の表面に特徴的なシボ(凸凹)を表現しています。

Tango-chirimen,1720(1720年創織の丹後縮緬)

1720年創織の丹後縮緬,Tango-chirimen,漱石の猫, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons,Link

天然撚り(てんねんより)とは?

繊維を撚ることで、糸をつくっていきますが、そもそも繊維自体にも天然の撚りがあります。

例えば、綿繊維ですと、繊維の太さや長さは品種によって異なりますが、顕微鏡で観察してみると凹凸が少なく、ひらべったいリボンのような形をしており、ところどころでよじれています。

このよじれを天然撚りと言いますが、天然撚りがあることで、糸に紡げばしっかりと絡み合うのです。

糸の弾力性や強度に非常に影響を与えるので、製品にしたものがほつれたり、型崩れしづらかったりというのは、天然撚りが大きく関係しているとも言えます。

綿を手で撚ることを(手つむぎ)イメージすると、ガンジーが糸車を回している有名な写真を思い起こします。

Gandhi spinning

Gandhi spinning,Unknown authorUnknown author, Public domain, via Wikimedia Commons,Link

当時細い糸を紡ぐときは、早朝に霧の立ち込める川のほとりで糸車を回し、指先に油をつけながら紡いだといわれています。

早朝の霧、そして川の近くで湿気っぽい場所が、綿糸をつむぐのに適していたのです。

意匠撚糸、飾り糸、ファンシーヤーン(Fancy yarn)の種類と特徴

糸をり合わせて、糸にすることを撚糸ねんしといいますが、撚り合わせる糸の速度が違う糸(甘撚あまより・強撚きょうねん)、太さや長さ、色など異なる複数の糸同士を組み合わせることによって、変わった外観や構造をもった装飾性のある糸をつくることができます。

また、絹やウールのように素材の違う糸を撚り合わせて両者の長所を生かした糸を作ったり、る糸の本数を増やすことで、太い糸や強い糸も作ることができます。

意匠撚糸いしょうねんし意匠糸いしょういと、飾り糸、ファンシーヤーン(fancy yarn)などと呼びますが、一風変わった糸は、組み合わせによって色々なパターンができるので、多くの種類があります。

HandspunYarn

HandspunYarn,I, Malzees, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons,Link

ネップヤーン(nep yarn)

代表的な意匠糸の一つで、芯になる糸に、粗糸そし(まだ撚りのかかっていない繊維)を用いて、間隔をおいてつぶ状の繊維のかたまりを吹き付けながら撚りをかけた糸です。

繊維のかたまりの大小や、吹き付ける間隔の長短、ネップの素材や色を変更することによって、さまざまなバリエーションが生まれます。

ツイード糸にもネップヤーンは、よく用いられます。

スラブヤーン(slub yarn)

スラブとは、紡績糸の不均整な部分を意味しますが、その名前がつくだけあって、一本の糸の中に、太さが違う、膨らんだ太い部分がある糸のことをスラブヤーンといいます。

太番手と細番手の糸、または太い細かいが極端なもの、同じスラブヤーンの2本撚りなど、スラブラーンと一口にいってもさまざまな種類があります。

糸と糸を撚り合せることによって(撚糸ねんし)あえて不均整な部分をつくるので、撚糸スラブと呼ばれることもあります。

他の意匠糸と撚り合わせて、用いられることも多いです。

シュニール糸(chenille yarn)

シュニールは(chenilleは英語で毛虫の意)、綿・絹・毛などで織り、こまかい毛をたて、なめらかでつやのあるビロード状に毛羽立てた飾り糸です。

壁糸(corkscrew yarn)

壁糸かべいと(corkscrew yarn)は、細い芯となる糸に太い糸が螺旋状らせんじょうに巻きついて見える糸のことです。

チェーンヤーン(chain yarn)

チェーンヤーンは、壁糸かべいとに、さらに細い一本の糸を添えて逆に撚りをかけて、一見すると鎖のように見える糸のことです。

ささべり糸(笹縁糸)(gimp yarn)

笹縁ささべりとは、笹の葉っぱに白く細いへりがあるのに似ていることから、衣服や袋物やござなどのへりを、補強や装飾の目的で、布や組紐などで細くふちどったもの意味します。

ささべり糸は細糸を芯にして、太糸を速く送り出して巻きつけ、さらに細糸を引き揃え、その回りに巻きつけたものです。

ノップヤーン(knop yarn)

ノップヤーンは、星糸ほしいとともいい、ある一定の間隔ごとに、玉がついているようにみせるために撚り合せた糸のことです。

間断的に一本または二本の巻糸を芯糸の上部にところどころ固め、強く巻き付けて節をあらわします。

金糸(きんし)(gold thread)

その名の通り、金箔を使った糸で、銀糸は銀箔をつかった糸で、刺繍ししゅうなどの装飾用としても使われていました。

ループヤーン(loop yarn)

名前の如く、糸の表面にループ(輪っか)をもたせた糸です。糸の中心にある芯糸に、甘く撚られた糸を連続して絡ませることによってつくっています。

杢糸(もくいと)(grandrelle yarn)

もくいととは、精錬して漂白してある糸と色糸、あるいは色糸同士を2本〜3本撚りあわせたもので、布地にするといわゆる「霜降り」と呼ばれる外観になります。

糸の撚り、特徴を知ることで、素材に対する見方が大きく変わってきます。

【参考文献】『なぜ木綿?綿製品の商品知識  日比暉』


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