花を染料にして染める行為は、古くからおこなわれてきました。
特に有名なのが紅花で、赤系の色を染めるのに重要なものとされてきました。
紅花以外にも、杜若や、萩、露草などの花摺りであったり、槐花(槐)、金銀花(すいかずら)、向日葵なども染料とされていました。
紅花染めが色の移ろいが激しい染料として、数々の歌にも読まれているように、一般的には花びらは染まりにくく、たとえ染まったとしてもすぐに色あせてしまうものとされてきました。
花びらで染色・草木染めをする方法
花を用いて染めをするためには、染色に足りるだけの花を集める必要があります。
大体、絹のきもの一反(680g〜700g)を浸染によって染めるためには、中色の濃度で最低5kg以上の花が必要とされます。
花を一度にたくさん集めることが難しいものは、冷蔵庫に保存しておくのも一つの手段です。
花の量が少ない場合は、それに見合う小物やハンカチ、スカーフなどを染めて楽しむの良いでしょう。
染色・草木染めにおけるチューリップ
チューリップ(tulip)の花は、染色に適した花の一つです。
染色の例としては、以下のような工程になります。
絹のきもの一反分(680g〜700g)を中色の赤系の色に染める場合は、赤系の花を5〜10kg用意します。
①摘み取った花を新鮮なうちに、花びら(花弁)と花の中央の部分で雄しべと雌しべが合わせた部分(花芯)に分け、花びらは花粉を洗い流してから水をきる
②花びらから色素が出るように揉み、適当な容器にいれ、花びらが浸るくらいの水を入れる(容器は金属分など染色に影響の出そうな物質が溶け出さないもの)
③水の量に対して0.2パーセント程度の酢酸をいれ、よく混ぜて4~5日以上放置し、十分に発酵させる
④色素が液中に十分に溶け出した頃を見計らって火にかける。(発酵が充分でないと、退色の原因となる)
⑤絹織物一反を染めるには、染液80リットル〜100リットル(糸の場合は50リットル〜70リットル)くらいになるように水を加えてから充分に発酵液を煮出し、濾す
⑥濾した液をさらに一晩置き、余分なゴミをさらに沈殿させて、その上澄み液を染め液とする
⑦布を入れ、染め液が85℃〜90℃くらいになるまで徐々に温度を上げ、一時間ほど煮染する
⑧60℃くらいに熱した媒染液に布を通して発色させた後、水洗いをする(熱染めと媒染を数回繰り返す場合もある)
媒染液となる酸やアルカリ、各種の金属塩は、種類によって色合いが異なってきます。
染めに使用できる花
大体の花は、色素のあるかぎり染めることができます。
染色に使用できる花として知られているものは多くあり、例として下記に挙げます。
- 紅花(べにばな)
- 椿(つばき)・・・サポニンの含有量が非常に多く、花をもみながら充分に除去する。酸通しを染色の後に行う
- 山茶花(さざんか)・・・花びらに毒性があるため、皮膚が弱い人は手袋をつけて花を揉む
- バラ・・・剪定した花びらを使用し、組織がしっかりしているため、通常の倍以上の日数をかけて発酵させる。バラ色を染めるためには、ゆっくりと温度を上げつつ、途中で酸媒染を繰り返し行いながら染める
- 菜の花・・・花の最盛期に花穂を摘み、自然発酵させて、染液は煮て濾したら新しいうちに染める。美しい菜の花色を得るためには、木灰の上澄み液である灰汁による媒染を行う。菜の花を灰と共に煮て濾し、その上澄み液をとって保存すれば、随時染液を熱することで染色が可能
- 彼岸花(ひがんばな)・・・花びらに毒性があるため、必ず手袋をつけて花を揉む
- 夾竹桃(きょうちくとう)・・・花びらに毒性があるため、手袋をつけて花を揉む。堅牢度の高いピンク色が染まる
- サフラン
- 露草(つゆくさ)
- 槐(えんじゅ)
- 杜若(かきつばた)
- 向日葵(ひまわり)
【参考文献】『月刊染織α1985年11月No.56』