宮城県栗原郡栗駒町に伝わる「正藍冷染」という技法は、どの地方においても見られない特徴的な藍染です。
一般的に行われている藍染は、藍甕のなかに、アルカリ分の木灰の上澄み液である灰汁を入れ、蓼藍の葉を発酵させて作った原料の蒅と小麦の外皮を煮出した糖分などを混ぜ、人為的に加温して発酵させます。
正藍冷染(しょうあいひやしぞめ)とは
正藍冷染とは、刈り取った藍の葉を「桶」と呼ばれるオケに入れて、木灰を加え、自然の空気の温度だけで発酵させるもので、人為的に熱を加えたりすることはしないため、藍染できるのは夏の時期に限ります。
こうした「原始的」ともいえる藍染の方法は、奈良時代あたりに行われていたとされます。
この珍しい「正藍冷染」という技法を伝える女性であった千葉あやの氏が、昭和30年(1955年)に国の重要無形文化財(人間国宝)に指定されています。
彼女が他界してからは、娘さんにあたる千葉よしの氏によって細々と受け継がれてきました。
千葉あやの氏が藍染していた宮城県栗原郡栗駒町は、もともと文字村と呼び、その歴史は700年〜800年と古く、村の人々は明治時代以前までは、自分で麻を栽培して、織って布を作り、藍で染めて着用していました。
明治時代の中頃までは、各農家で冷染が盛んに行われており、この村だけでも30軒くらいあったといわれています。
第二次世界大戦の前までは、まだ4軒〜5軒残っていたようですが、この戦中、戦後を通じて「正藍冷染」の技法を守り抜いたのは、千葉あやの氏のみだったのです。
正藍冷染(しょうあいひやしぞめ)の染色技法
東北地方は寒いため、藍は4月初めごろに苗床にタネが蒔かれ、5月末に畑に植え替えます。
7月中旬ごろに葉の刈り取りが行われ、刈り取った葉を乾燥させ、翌年の4月までワラの床に寝かせておきます。
4月に臼でついて藍玉を作り、木灰と混ぜて、桶(オケ)に入れておきます。
布となる麻は、4月にタネを蒔いたものを9月に刈り取り、水に浸して表皮をとり、煮沸した後、繊維を手でもんで細かく裂いていきます。
乾燥させた後、麻積み(糸ごしらえ)をして撚りをかけて糸を作り、高機で織り上げます。
藍染は、麻布を水で湿らせてから、藍の汁が入った桶(オケ)に20分ほど浸してから、空気にさらして発色させます。
染める回数で色が濃くなっていくため、繰り返すことで濃く染められます。
染めの技法上、無地染めが基本的に行われていましたが、時には型染めも行ったようです。