ほとんどすべての繊維は、「ポリマー」と呼ばれる高分子物質で構成されています。
合成された高分子化合物から造った繊維を、「合成繊維(英:synthetic fiber)」と言います。
目次
合成繊維とは
天然繊維は、自然の力で高分子を形成したものをそのまま利用します。
再生繊維や半合成繊維は、天然の高分子を分離・精製・加工することで用途や機能性などの利用価値を高めたものです。
一方、合成繊維は新しい物質の創造で、繊維の構造は炭素が中心となり、酸素や窒素、水素や塩素などが共有結合で強く結びついて鎖状高分子となったものです。
目的とする構造式を持つ鎖状高分子を作ることができる低分子があれば都合がよく、有機合成化学の発達によって、合成繊維を作れるような低分子を繊維とは一見すると無関係な石油や石炭、石油ガスや天然ガス、工業生成物や農作物などを化学的処理することで得ることができます。
石炭と水と空気からナイロンがつくられ、この発明から続々と合成繊維が発明されていきました。
ポリエステル、アクリル、ビニロン、ポリ塩化ビニル、ビニリデン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリウレタン等、合成繊維の例はたくさん挙げられます。
世界三大合成繊維はナイロン、ポリエステル、アクリルの3種類で、合成繊維のほとんどのシェアを占めています。
合成繊維の特徴
合成繊維の特徴としては、必要に応じてさまざまな断面形状にできるという性質があり、天然繊維には見られない特徴も多くあります。
- 一般的に軽く、水に浮く繊維もある
- 引っ張り、引き裂き、折り曲げ、摩擦など外力に対しての耐性が高い
- 吸湿性、吸収性が低い(メリットにもなり、デメリットにもなる)
- 糸や布にある形を与えて、熱と圧力を加えると形が固定される性質があり、これによってさまざまな加工がしやすい(熱可塑性がある)
- 一定の温度以上では、溶けたり固まったりする
- 太陽光、紫外線や温度の変化によって変形・変色・劣化等の変化を起こしにくい(耐候性がある)
- アルカリ、酸類・酸化剤などの薬品に対して、溶けたり、膨張したり、反応しづらい(耐薬性がある)
- 基本的に虫食いされず、カビにくい
合成繊維のデメリットにもなる吸湿性、吸収性が低いという点に関しては、他の素材と合わせて使うことで、そのデメリットを良いものに転換することも可能です。
三大合成繊維
ナイロン、ポリエステル、アクリルは、三大合成繊維と言われています。
ナイロン
ナイロンは、アメリカに本社を置く化学メーカーであるデュポン社(Du Pont)が開発し、商標登録したものでしたが、現在は「アミド基」という化学構造をもつ分子でできた合成繊維の総称として使われています。
ナイロン繊維は、開発当初は石炭からつくられていましたが、現在では石油を原料にしています。
「クモの糸よりも細く、鉄鋼よりも強い」
ナイロンが登場し、当初のキャッチフレーズが上記の言葉だったようですが、密度をデニールあたりで計算すると、確かに鉄より強いのです。
ナイロンをポリエステルと比較すると、水を吸いやすく、水を吸った時の性質変化が大きいです。
強度はしっかりしていて、伸びにくく、ストッキングに良く使われています。
ポリエステル
ポリエステルは、石油からつくられ、二価アルコールと二塩基酸からエステル基の繰り返しを持つ、ポリエチレンテレフタレートのことを意味します。
21世紀に入ってから、綿の生産量を上回り、世界で一番生産されている繊維となりました。
ポリエステルは、数々の優れた性質をもっており、特に、熱可塑性(糸や布にある形を与えて、熱と圧力を加えると形が固定される性質があり、これによってさまざまな加工がしやすい)と低吸湿性(湿気を吸い込みにくいため、水に濡れても乾きやすい)が挙げられます。
ウォッシュアンドウェア(wash and wear)やノーアイロン、いまだとイージーケアなどと言う言葉がありますが、家庭で洗濯ができて濡れても乾きやすく、しわになりにくい性質が、熱可塑性と低吸湿性によって引き出されているのです。
他の繊維となじみやすいので、多くの天然繊維や化学繊維と混紡したり、異なる糸を用いて交織(こうしょく)したりして、互いの長所を生かしながら、短所を打ち消し合えるのです。
ポリエステルの短所としては、繊維が硬いためにピリングと呼ばれる毛玉ができやすく、汚れのひどいものと一緒に洗ったり長時間洗濯液に浸けておくと、その汚れを吸い取って次第に薄黒くなっていく「逆汚染」と言われる欠点もあります。
そのため、白いポリエステル生地は、汚れたものと一緒に洗わない方が良いです。
アクリル
アクリルも石油からつくられます。
繊維の主体は、中間原料のアクリロニトリルを化学構造単位として繰り返す、ポリアクリロニトリルです。
高分子内のアクリロニトリル成分が85%以上のときには、アクリル繊維といい、85%以下35%以上の時にはアクリル系(モダクリル)繊維と言います。
アクリル繊維の特徴としては、ふんわりと柔らかく、暖かい肌触りで合成繊維の中では一番ウールに近いと言える素材です。
カシミヤ風のやわらかいものから、モヘア風の粗くもふんわりとしたものまで多くの品種がつくられています。
その繊維の色の美しさと耐久性が認められ、1964年の東京オリンピックで使われた万国旗はすべてアクリル製だったようです。
アクリル系繊維は、アクリル繊維よりもさらにしなやかで、合成毛皮、帽子、かつらやぬいぐるみなどに使われています。
合成繊維の染色
木綿、麻、絹、羊毛など、天然繊維が衣服の中心だった時代から、化学的に合成された合成繊維が発明されることで染色工業においても大きな変化がありました。
化学繊維のレーヨンやキュプラが製造された際は、これらの繊維の組成は植物由来のセルロースで、染色用の染料は特に開発する必要がなく、もともとあるもので応用することができました。
しかし、アセテート繊維が発明されると、在来の染料では染色ができず、この繊維のための染料の開発が必要となり、分散染料が生まれました。
1950年頃から急速に発展したナイロンをはじめ、ビニロンやポリエステルなどの各種アクリル系ポリ塩化ビニル・ポリ塩化ビニリデン・ポリブロビレンなどの合成繊維に対する染色の問題が重要となり、新しい染料や染色技術の開発が進みました。
一般的に合成繊維が天然繊維に比べて染色が難しいとされるのは、合成繊維は天然繊維と同じく有効な染着座席を持っていますが、繊維の微細構造が緻密すぎて、染色に際して染料の繊維内部への拡散が極めて難しいことが大きな原因とされました。
そこで、分子量が比較的小さく、可溶化基を持たない分散染料がこれらの合成繊維にも適用されて、分散染料は合成繊維の線量として広く認識されてきました。
また、化学構造が比較的簡単な塩基性染料(カチオン染料)も合成繊維全般によく染まるということで知られてきました。
ビニロンやナイロン、ポリエステル、アクリル繊維の染色
合成繊維のビニロンやナイロンなどは比較的吸水性が大きく、染色も他の合成繊維よりも容易です。
特に吸水性が合成繊維の中で最も大きいビニロンは、直接染料でも染色が可能で、ナイロンも酸性染料、含金属酸性染料などで染色ができます。
ポリエステルには、ポリエステル専用の分散染料も開発され、各種のアクリル系繊維には、系統によって酸性染料や分散染料のほか、カチオン染料が応用されました。
特にオーロン系のアクリル繊維には、特殊なアクリル用のカチオン染料があります。
染色技術の面でも、高温高圧力染色やキャリアー染色、サーモゾル染色、原液着色染色など合成繊維が生まれたことで、新しい染色技術が開発されました。
主な合成繊維とそれに使用する染料名としては、以下のようなものが挙げられます。
- ナイロン・・・酸性染料、直接染料、カチオン染料、酸性媒染染料、建染染料、硫化染料、ナフトール染料、分散染料
- ポリエステル・・・分散染料、建染染料、ナフトール染料
- ビニロン・・・直接染料、カチオン染料、建染染料、硫化染料、分散染料
- アクリル・・・カチオン染料、分散染料
高分子という概念が繊維分野を進歩させた
無機繊維と金属繊維以外の化学繊維は、「高分子」と呼ばれる細長い形をした分子でできています。
高分子は、ヒモのように分子が繋がっているため、低分子とは異なる形状を取るので、それによって特異な性質を発揮します。例えば、デンプンや木材、綿、ゴムなどは非常に有用な天然の高分子です。
人工的に合成される高分子は、モノマー(単量体)がたくさん連結、重合することでポリマー(多量体)になります。モノマーの連結している数を、重合度と言い、2種類以上のモノマーを重合させたコポリマー(共重合体)もたくさんあります。
天然の高分子では、タンパク質がコポリマーの典型的な例となります。
ヒモ状の高分子が、軟らかいのか、それとも硬いのか、分子の間に働く力が強いのか、それとも弱いのか、分子同士がどれほど互いに絡み合いながら規則性をかたち作っているのかなどによって、様々な性質が現れてきます。
繊維を構成する高分子は、軽くて強くて加工性がよく、力学、熱、電気、光などに対する性質、または化学薬品に対する性質など、多彩な性質を持っているのです。
天然の高分子は構造が複雑ですが、一般的な合成された高分子は、簡単な構造から組み立てられています。ただ、その合成方法によっていろんな性質を持ったものになります。