すくいは、「抄い」「掬い」「抔い」と書き、本来は動詞である「すくう作業をすること」を表したもので、織物を織るときに行う「しぐさ」のことをも表します。
すくい織(すくいおり)とは?
「すくい織」という織物はなく、「すくう技法で織った織物のこと」をすくい織と呼んだりします。
したがって、すくいの技法を使った織物であっても、織り上がったものは別々の名称を持つことが多くあります。
一般的に織物を織る上での「すくい」という言葉は、「すくい疵」のことを表します。
すくい疵とは、製織する時にできるもので、開口が不完全で、経糸と緯糸の何本かが部分的に組織しないで浮いてできる疵のことをいいます。
すくいの技法は、小さなすくいのための杼(シャトル)を使って、絵緯を織物の模様表現の必要な部分の幅のみに、縫う様にして組織させて織り表すことをいいます。
文様を織り表すためのすくい糸のことを紋織物の柄出し糸と同じく、絵緯や絵貫、刺貫などと呼んでいます。
すくい織の良さは、織物の表面に、簡単ないくつかの飛び飛びの、異なった紋様を表現できる点です。
また、一般的な織り方の様に、全幅に絵緯を通さなくてよく、必要な部分のみに絵緯を使用するため経済的で、なおかつ、かさばらず、多色使いが可能になります。
すくい織の特徴
すくい織の技法は、技術的には、綴織とほとんど変わりなく、綴織ほどの制約はないため、自由にイメージした図柄をジャガード織り機などの機械を使用せずに織り上げられます。
織物でありながら、必ずしも経糸に対して、緯糸が直角の角度で織り込まれなくてもよく、この点が「すくい」織である理由ともいえます。
地緯(地の部分の緯糸)に対して、柄を出す絵緯(模様部分の緯糸)が、アンバランスな太さの糸であっても、それなりに織り出せます。
綴織は、経糸が緯糸によって隠れますが、すくい織は、経糸・緯糸があぜになる平織になります。
すくい織には、これといった決まった基準になるものはないため、織りたいイメージを織り手の個性や感性で自由に織り上げられます。
【参考文献】『月刊染織α1987年2月No.71』