酢酸(化学式CH3COOH)は、エタン酸ともいい、有機酸の代表的なものの一つです。
酢酸は、無色の刺激臭のある液体で、食酢にも3%〜5%含まれています。
酢酸の酸としての強さは、中程度です。
中程度である理由としては、水溶液の中でイオン解離(酢酸アニオン+水素イオン)する濃度範囲が、塩酸や硫酸のような強酸に比べて低いためです。
酢酸は、媒染染料による染色や塩基性染料の溶解、漂白や仕上げ加工などの助剤として非常に広範囲に用いられています。
塩基性染料は、アルカリ性の性質があり、分子中に塩基性の原子団をもち、水溶液中にて、カチオン性を示すため、カチオン染料とも呼ばれます。
塩基性染料は、水には溶けにくいため、水溶液を作る場合は溶解時に酢酸、もしくはアルコールを使用してから、水で希釈します。
目次
酢酸アルミニウム
酢酸アルミニウム(化学式Al(CH3COO)3)は、媒染剤として用いられ、顔料の赤色レーキや防水剤、撥水剤にも使用されています。
酢酸アンモニウム
酢酸アンモニウム(CH3COONH4)は、潮解性(物質が空気中の水(水蒸気)をとりこんで自発的に水溶液となる現象のこと)を持つ、白色結晶で、水溶液はほぼ中性を示します。
加熱するとアンモニアが飛んでいき、次第に弱酸性を示すようになります。
金属錯塩染料(1:2型)のような染まっていくスピードが早い染料による染色の際、染浴に酢酸アンモニウムを加えると、徐々に染液が弱酸性に傾いていき、染まるスピードを遅める効果がある(遅効性の促染剤)ため、結果としてムラが出にくくなります。
酢酸クロム
酢酸クロム(化学式Cr2(CH3COO)4(H2O)2 )は、媒染剤として使用されます。
青紫色の結晶で、水溶液は緑黄色です。
酢酸すず(酢酸第一錫)
酢酸すず(酢酸第一錫)は、白色の水溶性の結晶で、媒染剤として用いるほか、直接染料の抜染剤としても使用されます。
(酢酸第二錫)もありますが、こちらは媒染には使用できません。
酢酸すず(酢酸第一錫)は、毒物劇物取締法で劇物に指定されており、下水に排出できません。
酢酸鉄
酢酸鉄(化学式Fe(CH3CO2)2)は、淡い茶色の固体で、酢酸第一鉄とも言われます。
水に簡単に溶けて、水溶液は淡い緑色になります。
酢酸に鉄を溶かして作られ、媒染剤として染色に使用され、日本をはじめアジアの一部地域ではお歯黒として用いられてきました。
関連記事:【媒染剤】染色・草木染めにおける鉄漿(てっしょう)
酢酸銅
酢酸銅(化学式 Cu(CH3COO)2 または省略して Cu(OAc)2 )は、媒染剤や殺菌剤、殺虫剤などに使用されます。
暗い青緑色(緑青色)の結晶で、水またはエタノールに可溶し、有毒です。
酢酸銅は、毒物劇物取締法で劇物に指定されており、下水に排出できません。
酢酸ナトリウム(酢酸ソーダ)
酢酸ナトリウム(化学式CH3COONa)は、酢酸と塩の成分であるナトリウムからできており、酢酸ソーダともいいます。
水溶液は弱アルカリ性を示すため、PHの調整に用いられたり、媒染剤に用いられるほか、アルコールにもよく溶けるため酸性染料の精製に使用されたり、食品添加物として日持ち向上(保存料)の目的等で古くから世界中で使用されてきました。
食品の保存のために、「お酢」ではなく「酢酸ナトリウム」が使用される理由としては、お酢を食品に添加した場合、その「酸っぱさ」が目立ち、好ましくない味になる一方、酢酸ナトリウムは弱アルカリ性なので、そこまで酸っぱさを感じないという点にあります。
【参考文献:『月刊染織α1986年5月No.62』