デザインという概念・思想のはじまり。デザインの本質は、モノに意味を与えること


デザインという概念の発生は、社会思想家のジョン・ラスキンや思想家であり芸術運動家であったウィリアム・モリスの思想がその源流として考えられています。

19世紀半ば、イギリスで産業革命がおこります。綿織物の製造における紡績機の開発、製鉄業の成長、蒸気機関の開発による動力源の改革、蒸気船や鉄道が発明されたことによる交通革命等、人の手ではなく、産業機械の発明と発展が大きく経済を動かし始めたのです。

初期の機械生産は、いいかげんで大ざっぱなものづくりであり、品質的には人の手が生み出すものと比べると、非常に劣るものでした。

そんな中、異常な速度で「下手なもの」が量産されていき、伝統的に手仕事が育んできた生活や文化、美意識をも奪っていくような機械生産に、意義を唱える人々も少なくありませんでした。

その代表的な人物が、ジョン・ラスキンとウィリアム・モリスです。

デザインという概念・思想のはじまり

ラスキンの著作や講演、モリスの芸術運動は、機械生産における弊害を厳しく批判し、職人の技術を守り復興させようという反近代への強い主張でしたが、大量生産、大量消費へ向かって爆発的に進み続ける機械生産に対する社会一般の風潮や思想を押しとどめるまでの力にはなりませんでした。

しかし、彼らのものづくりに対する着眼点や感性、美意識は、デザインという思想のはじまりとして後のデザイン運動家たちに支持され、社会に影響を与えていくのです。

原研哉氏の『デザインのデザイン』には、機械生産に対する芸術運動においてラスキンとモリスが与えた影響について書いてありますが、また一方でラスキンやモリスが生み出した思想であると断言することはできないとも語ります。

「最適なものや環境を生み出す喜びやそれを生活の中に用いる喜び」といったものが地下水脈のように19世紀半ばの市民社会の中にこんこんと貯えられてきたはずである。そういう意識が、機械生産による粗雑な日用品の発生をきっかけとして社会の表面に噴出したのである。ラスキンやモリスのムーブメントはその象徴である。原研哉(著)『デザインのデザイン

ものづくりと生活の関係性のなかに豊かさや喜びを生み出す源泉があるという着眼点や感性は、市民社会のなかでも育まれていたはずで、そのなかで象徴的なのがラスキンやモリスの運動ではないかということです。

ラスキンやモリスが種子を撒き、その後、20世紀初頭の芸術運動が土壌を耕し、1919年にドイツのワイマールで創設された造形教育機関であり、運動でもあった「バウハウス」でデザインという思想や概念が芽を出しました。

バウハウスは、1933年にナチスの弾圧によって消滅するまで、その活動期間はわずか14年あまりで、最盛期でも10数人の教師と200名足らずの生徒しか在籍しなかった小さな学校でしたが、ここで「デザイン」という概念に、はっきりと方向性が与えられたのです。

デザインの本質は、モノに意味を与えること

デザインの意味や定義については解釈の幅が非常に広く、曖昧なものです。

現代においては、デザインに関する理論家もたくさんおり、これまでもさまざまな議論もされてきました。

ロベルト・ベルガンティ (著)『デザイン・トリブン・イノベーション』では、デザインとは、製品の形や機能と並列に見なされることが多いと指摘しています。

多くの人々が、デザインとは基本的に形態と扱うものだと信じている。エンジニアが、製品の機能をつくるために技術を用いるとすれば、デザイナーは、モノを美しくするために形態を用いるものだという認識である。ロベルト・ベルガンティ (著)『デザイン・トリブン・イノベーション

上記のように外見的な美しさも「デザイン」ですが、デザインの本質的な部分は「モノに意味を与える」という点にあるとも言われています。

外見ではなく、意味づけにおけるデザインについて、1989年に刊行した『デザイン・イシュー』においてクラウス・クリッペンドルフが卓越した定義を示しています。

「デザインの語源は、ラテン語のdeとsignareに起因する。これは、何かをつくり、それにサインを印すことで見分けをつけ、それに意義を与え、他のモノや所有者、ユーザー、さらには神との関係を明確に示すという意味を持つ。

この根源的な意味に基づくと、こうも言えるであろう。「デザインとは、(モノに)意味を与えるものである。参照:ロベルト・ベルガンティ (著)『デザイン・トリブン・イノベーション

デザインが独自なものになるには、他と違う外見にすればいいという簡単な話でないということはよくわかるでしょう。

デザインにおいて本当に重要であるのは、人々が当たり前のように製品に対して与える意味を刷新することです。アップルが携帯電話に対する人々の意味づけを、アイフォンの登場によって大きく変えたというのが良い例でしょう。

人々が製品を購入する一番の理由は何か?なぜ、その製品が人々にとって意味があるのか?新しい意味を提案する製品を提供することで、どのように人々を満足させ、喜ばすことができるのか?

上記のような問いかけは、製品を「デザインする」上では重要で、競合他社が考えもしなかった、ユニークな意味づけをおこなえたら、きっと素晴らしいものづくりができるのでしょう。

【参考文献】

  1. 原研哉(著)『デザインのデザイン
  2. ロベルト・ベルガンティ (著)『デザイン・トリブン・イノベーション

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