江戸時代に出版された書物である『女鏡』(上中下3冊)には、冠婚祝賀の心得や礼儀作法、服装、化粧、その他江戸時代の婦女子の躾の全般にわたる事項を、多数の挿絵が添えてながら記されています。
そのうちの一項目である「小袖めす模様の事」の項に、衣桁(着物を掛けておくために用いる、鳥居のような形をした衣裳掛け)にかけて表した式色服と12ヶ月の小袖模様(文様)十六図があります。
小袖とは、現在の「きもの」の原型にあたるもので、その名の通り、袖口が狭く詰まった仕立てになっています。
江戸時代の書物『女鏡(おんなかがみ)』における小袖の模様(文様)
『女鏡』は、いわゆる雛形本と同じ形式で小袖模様(文様)が表現されているため、雛形本の先がけともいえます。
雛形(ひいながた)は、ある物や模型や図案、模様などを人に示すのに都合が良いように、その形を小さくかたどって作ったもので、雛形本とは、本のようにまとまったデザイン集のようになっています。
江戸時代から明治時代にかけての建築や指物(金属で作った釘を使わずに組み立てられた木工品・家具)、染織などの分野で雛形本が作られました。
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『女鏡』は、慶安5年(1652年)に山本長兵衛によって改訂版である『女鏡秘傳書(じょきょうひでんしょ)』が出され、万治3年(1660年)版では、『女諸礼集』と改題され、この後にも数冊、本の体裁や内容の一部を変更するなどしてしばしば刊行されました。
ただ、小袖の模様(文様)に関する項目は、寛文(1661年〜1673年)以前の版も、その後のものも変化がありません。
各模様(文様)は、式色服に小柄な鶴亀松竹の吉祥文様(縁起がいいとされる図柄)がベタ付けしてあるほか、四本の平行線で囲まれた四辺形を基本とする幸菱や杉綾などの縞模様(縞文様)があります。
12ヶ月の小袖模様(文様)には、雲や波、雁木形などの模様を、デザインの区画を構成するための素材として使用しています。
その他、月名や季節を示す決まりの植物や郭公などの動物、氷や雪などの文字を共に配し、大胆に構成されたものが多くあります。
慶長の頃の模様(文様)は、抽象的なイメージから具体的なものへと移っていく過渡期において、すでに寛文の模様様式を感じられます。
注記してある地色名は、以下の通りです。