扇は、儀式の際や夏の暑さに対して涼むために用いられる道具です。
平安時代前期に日本で生まれ、笏(しゃく)から変化して生まれたとする説がありますが、はっきりとはしていません。
扇は人々に用いられた道具として模様化(文様化)され、さまざまなデザインに用いられてきました。
デザインにおける扇(おうぎ)
扇円文(おうぎえんもん)
扇円文は、三つの扇面の要部分を中心に寄せ集め、円形に扇を形成したものです。
鎌倉時代(13世紀ごろ)に作られた漆塗の手箱である「檜扇紋散蒔絵手箱」は、檜扇(宮中で用いられた木製の扇)を用いた扇円文が全体に表現されています。
鎌倉期の絵巻には、檜扇を染め抜いた装束が見られますが、蒔絵(漆工芸の代表的な加飾技法)のデザインとしては、上記の手箱は唯一の遺産です。
扇散し文(おうぎちらしもん)
扇散し文(おうぎちらしもん)は、全開の扇を散らしたもので、前開・半開・閉じてたたんだ扇を取り混ぜて散らしたデザインもあります。
鎌倉時代からの蒔絵の装飾模様(文様)に、優れた扇散し文(おうぎちらしもん)のデザインが見られます。
蒔絵とは、漆で絵を描き、乾かないうちに金粉などを蒔く、日本独自の漆工芸です。
室町時代には、源氏絵(『源氏物語』を題材とした絵画)や「伊勢物語」、「平家物語」など物語絵を描いた扇面を、下絵を描いた地紙に散らしたデザインが生まれます。
江戸時代の17世紀ごろに作られた屏風である「扇面散屏風」には、扇の形をした画面に、さまざまな絵が描かれ、屏風に貼り付けられています。
下絵は川波や水辺の波打ち際(渚)、土手に葦(イネ科の植物であるアシ)を茂らすなどした景観が用いられました。
扇面を飾る絵画によって扇散し文(おうぎちらしもん)は華やかさを増し、このようなデザインは染織品においても好まれました。
安土桃山時代の能装束や小袖には、縫箔や辻が花染などによる数々のデザインがほどこされています。