南天(Nandina domestica THUNBERG)は、 西日本、四国、九州など比較的あたたかい地域に主に自生していますが、もともとは中国から渡来したといわれています。
属名のNandinaは、安政4年(1858年)に、長崎の出島に来日したスウェーデン人のCarl Peter Thunbergが日本名のナンテンから命名したもので、domesticaは家庭を意味するもので、人の家によく植えられていることからきています。
南天といえば、赤い実をつけることがよく知れられていますが、白い果実をつけるシロミノナンテンや、淡紫色のフジナンテンなどがあります。
葉っぱが細く、繁殖しやすいホソバナナンテンや、葉っぱが丸みを帯びているものなど、園芸品種が非常に多いことでも知られています。
1年を通して葉が枝や幹についており、樹高の低い常緑低木として、観賞用に庭木として植えられることが多いです。
樹高は、2mほどに成長し、6月ごろに茎の先に白色に小さい花を咲かせます。
果実は丸く、はじめは緑色ですが、冬のはじめごろに赤く熟すため、正月飾りのために使用されたりします。
南天の花は、俳諧における初夏の季語となり、果実は冬の季語として詩や歌に詠まれることも多いです。
目次
日本における南天の歴史
日本において、南天は古くから庭木や盆栽として鑑賞されていました。
記録としては、鎌倉時代の公家である藤原定家(1162年〜1241年)が、18歳から74歳までの56年間ものあいだ書き続けていた『明月記』に記載があります。
江戸の町人文化が花開いた文化・文政の頃には、愛好家によって数々の品種が作りだされました。
明治17年(1884年)出版された『南天品集』には、非常に多種類の南天が記載されているのです。
染色・草木染めにおける南天
南天の木や葉を使用すると、錫媒染で黄色に、クロム媒染で黄茶色に染めることができます。
樹皮や木には、黄色染料として重宝されてきたキハダや黄連と同じで、アルカロイドのベルベリンという成分が含まれています。
南天と同じメギ科のメギ、ヒイラギナンテンなどとともに、南天は「染料植物の一つ」として挙げられるような植物ですが、染色以外にも、人々の生活の中に多くの風習やならわしを残してきた植物としても有名です。
縁起の良い木としての南天
南天は古くから縁起の良い木として、人々に親しまれていました。
正月に掛ける掛け軸には、水仙と南天をともに描いた天仙図が用いられたり、武士は、鎧を入れておく箱(鎧櫃)の中に葉を納めておき、戦いに出る際に枝を床に飾り、戦勝を祈ったこともあったようです。
縁起が良いとされていたのも、ナンテンという発音に「難転」という当て字をあて、「禍転じて福となす」というような俗説が由来と言われています。
悪夢を見た場合は、枕の下に葉を敷いたり、枕に南天を描いたり、その他南天でできたお箸や杖などももっぱら縁起を担いだものでした。
南天の薬用効果
南天の赤い果実は、南天実と名付けられ、漢方薬としては使用しませんが、民間薬として咳抑える薬として、一日5g〜10gを煎剤(煎じて飲む薬)として用いられたりしました。
成分には、アルカロイドを含み、過量に摂取すると副作用を起こす可能性があるため、注意が必要です。
古くは、南天の葉っぱの裏を上にして魚や食べ物を盛りつける器にすることもあったようですが、これは葉っぱに毒消し効果があるという意味にもとづいています。
実際の研究でも、南天の葉っぱに抗アレルギー作用がある物質が含まれていることが報告されているようです。
参考文献:『月刊染織α 1981年11月 No.8』