染色・草木染めにおける柏・槲・檞(かしわ)。薬用効果や歴史について


かしわ(学名:Quercus dentata)は、その若葉をお餅に包んだ「かしわ餅」の名前でも知られている植物です。

漢字では、かしわのほか、かしわかしわの字が当てられ(以下、かしわの表記に統一)、「ほそばがしわ」、「たちがしわ」、「もちがしわ」、「おおがしわ」など多くの異名があります。

種名の「dentata」は、葉っぱの形が、のこぎりの歯のようにぎざぎざした形状(歯状しじょう)なっていることを意味しています。

染色・草木染めにおける柏・槲・檞(かしわ)

Quercus dentata

槲,柏,かしわ,Quercus dentata,No machine-readable author provided. Inti-sol~commonswiki assumed (based on copyright claims)., CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons,Link

かしわは、ブナ科の落葉高木で、北海道から九州、中国など幅広く分布しています。

木の高さは20メートルに達するものもあり、雌雄しゆう同株で、4月から5月にかけて若葉が伸びる頃に黄褐色の小さい花が咲きます。

木材は、木目もくめは粗いですが、強くて堅く、そして重い特徴があります。

割りやすく加工にも適しているので、土台や枕木、床板や船材、ウイスキーの樽、まき材などさまざまな用途に使用されます。

樹皮や葉には、タンニンやクエルシトリンなどのフラボノイドが含まれています。

古くから日本各地において、魚介類を捕獲するために用いる漁網ぎょもうや絹織物の染色に用いられてきました。

また、樹皮はタンニンを多く含んでいるため、皮をなめすためのなめし剤にも使用されていました。

上村六郎(著)『民族と染色文化』には、樹皮の煎汁せんじゅうを用いて、そのままで褐色、鉄媒染で紺黒色、石灰媒染で黄褐色、ミョウバン媒染で淡黄色に染まり、葉っぱでもほとんど同じような効果が出ると記載されています。

また、アイヌ民族が使用していた染草そめくさかしわを挙げています。

江戸中期の儒学者・本草学者・教育者である貝原益軒かいばらえきけんの著書『秘事記(萬寳鄙事記ばんぽうひじき)(1705年)』には、「かしわ染」として、葉を用いて黒染めされたいたことが下記のように記載されています。

黒染也、久しく成ても色変ぜず、又弱からず、柏の葉を多く取て濃くせんじ、布帛ふはく簇子しんしにはりて、右の煎じ汁を数十返、刷毛はけにて引、その黒泥こくでい(くろきどろ)に一返ひたし、少時有てあらひおとす」『秘事記(萬寳鄙事記ばんぽうひじき)(1705年)』

また、江戸時代後期の本草学者(薬物学)佐藤成裕さとうせいゆうの随筆で、各地で見聞きした雑事や各藩の産物などについて記されている『中陵漫録ちゅりょうまんろく(1826年)』には、「おはぐろ」の染める材料としてかしわの木を使った早鉄と称するものの記載があります。

奥州白河の村民は、春槲の木の新芽を採て、搾て青汁と絞り、文火にて煎じ、結こうの如くして、木の葉に包み、日乾す、久を経て硬くなるを破て、鉄漿おはぐろの中に入て歯を染しむ、五倍子ごばいしの代薬なり、土俗、是を早鉄と云、或市中に売に出る『中陵漫録ちゅりょうまんろく(1826年)』

上記では、春の若葉を絞った青汁を火に煎じ、ペースト状にして木の葉に包んで乾かし、硬くなったものを鉄漿おはぐろのなかに入れて歯を染めるとしており、五倍子ごばいしの代わりもなったと記載されています。

柏・槲・檞(かしわ)の薬用効果

かしわの樹皮は、生薬名で檞樹こくじゅ檞葉こくようといい、タンニンによる収斂性しゅうれんせいが利用されているもので、クヌギなどの同属植物の樹皮と同様の効果が期待されていました。

関連記事:染色・草木染めにおける櫟(クヌギ)。薬用効果や橡色(つるばみいろ)の歴史について

収斂しゅうれん作用とは、タンパク質を変性させる(凝固)ことにより組織や血管を縮める作用で、皮膚や粘膜ねんまくの局所に作用し、被膜をつくって保護するほか、血管を収縮して止血したり、下痢を阻止する効果があります。

樹皮は、煎じて服用するほか、やけどや皮膚のできものには煎液を塗ります。

樹皮だけでなく、葉っぱや果実も薬用として活用されました。

柏・槲・檞(かしわ)の歴史

Quercus dentata - Flickr - odako1

柏の枯葉,Quercus dentata,Koichi Oda, CC BY-SA 2.0, via Wikimedia Commons,Link

7世紀後半から8世紀後半にかけて編纂へんさんされた、日本最古の歌集である『万葉集』には、かしわに関するものと思われる和歌が4首あります。

吉野川巌とと常磐なす我れは通はむ万代までに『万葉集(第7巻1134番歌)』

 潤和川辺の 小竹の芽の 人には忍び君に堪へなくに 『万葉集(第11巻2478番歌)』

潤八川辺の小竹の芽の偲ひて寝れば夢に見えけり『万葉集(第11巻2754番歌)』

印南野の赤らは時はあれど君を我が思ふ時はさねなし『万葉集(第20巻4201番歌)』

平安時代の漢和辞書である『和名類聚抄わみょうるいじゅしょう倭名抄わみょうしょう)(931年~938年)』には、「本草云  和名加之波かしわ、唐韻云  和名同上」とすでに名前が記されています。

かしわの葉は秋に枯れて黄色に変わりますが、普通の落葉樹のように全部葉が落ちずに翌春まで残り、新葉と交代するように落ちる特徴があります。

そのため、譲葉ゆずりはと同じく代を譲るさまから古くから神事や祝い事に関連づけたり、秋になると樹木の神(葉守の神)がかしわに移るとの信仰がありました。

関連記事:染色・草木染めにおける譲葉(ユズリハ)。薬用効果や歴史について

次の代へと葉をつなぐかしわにあやかり、男の子の成長と子孫繁栄の縁起を担いで、端午の節句(5月5日)に食べられるようになったのが「かしわ餅」です。

柏餅

柏餅,Kashiwa mochi,Hirotomo SABETTO, CC BY 2.0, via Wikimedia Commons,Link

かしわ餅は、江戸時代の寛永かんえい年間(1624年〜44年)以来、日本において広く普及し、かしわの若葉は大きく柔らかで、両面に毛が生えているような表面になっているので、蒸しても餅がくっつかず、乾燥しにくいのも利点としてありました。

かしわは古くから人々に親しまれてきため、その葉を図案化した家紋は非常に多く、もともとは神事を司る家系から出たものといわれ、現在も神職に多く見られる家紋となっています。

丸に三つ柏

丸に三つ柏,家紋,神崎光, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons,Link

三つ柏は、「柏紋かしわもん」の一種で、柏の葉を3つ描いた図案の家紋のことですが、日本の家紋のうち、広く用いられている10つの家紋(十大家紋)のひとつに数えられています。

【参考文献】『月刊染織α1983年No.22』


コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です