虎杖(学名 Reynoutria japonica)は、日本各地の山野や道ばた、土手などに群生するタデ科の多年草で、日本や朝鮮半島、中国などに分布しています。
春から秋にかけて多数の白や薄紅色の小さい花が咲き、花が夏の季語に用いられています。
漢名の虎杖は、明代の李時珍(1518-1593年)が26年の歳月をかけ、700あまりの古典を調べ、自らの調査も合わせて1900種の薬物について記述した本草書である『本草綱目』に由来が記述されており、「杖とはその茎を形容したもの、虎とはその斑を形容したもの」とあります。
染色・草木染めにおける虎杖(いたどり)
中国では古くから染料としても利用していたようで、『本草綱目』には、「葒草に似て粗く大きく細刺があり、物を赤く染め得る」と記されています。
山崎青樹著『草木染の辞典』には、「根茎はアルカリか銅媒染で茶色、錫媒染で明るい茶黄、鉄媒染で緑味の鼠を染める」と記されています。
虎杖(いたどり)の歴史
虎杖は、タジイ、タンジ、サイタズマ、サジツなどの古名や、スカンポ、スッパグサ、スイスイゴンボなどの方言、虎杖、酸杖、黄薬子などの漢名など、さまざまな名前を持っています。
『日本書紀(720年)』の十二、反正の項には、「多遲比は今の虎杖の花なり。故に称して多遲比瑞歯別天皇と謂う」と虎杖の古名が出てきます。
平安時代に編集された漢和辞典『新撰宇鏡(898年〜901年)』や、平安時代の薬物辞典であった『本草和名(918年)』、平安時代の漢和辞書である『和名類聚抄(倭名抄)(931年~938年)』には、虎杖の和名を、以多止利や伊太止里に当てています。
虎杖の名前の由来としては、痛みを取り去るの意味や、茎の皮を剥ぐと糸(雁皮繊維)がほぐれ出る様から、糸を取る「糸取り」がなまって使用されるようになった説などがあります。
平安時代にまとめられた三代格式の一つである『延喜式(927年)』には、内膳漬年料理に虎杖を雑菜や春菜として漬物に使用していたことが記してあるため、食用としての利用の歴史の古さもうかがえます。
平安時代中期に、清少納言により執筆されたと伝わる随筆『枕草子』にも虎杖は登場しており、「いたどりは、まいてとらのつえとかきたるとか、つえなくともありぬべきかほつきを。」と記述があります。
「虎杖は、虎の杖と書くが、虎は杖など使わなくても平気な顔をしているのに」というような意味になり、見ると特に何ともないんだけど、文字を書いたら大げさなものの一つとして虎杖を挙げています。
虎杖(いたどり)の薬用効果
虎杖は、根っこが虎杖根と称して、薬用に使用されていました。
葉っぱが枯れる晩秋ごろに根っこを掘り返して、水洗いし、ヒゲ根を取り除いてから天日で乾燥させます。ほとんどにおいはなく、味はわずかに渋く、苦味があります。
効果としては、解熱や利尿、月経の停滞を改善する通経薬として効果があるとして煎服されました。
また、薬用とは少し違うかもしれませんが、第二次世界大戦の戦中から戦後にかけて、タバコ不足の頃に「虎杖」の若葉が代用として使用されていました。
乾燥した葉っぱには、味やにおいはなかったようですが、灰が白くてくずれにくいところから使用されていたようです。
参考文献:『月刊染織α 1982年8月No.17』