染色・草木染めにおいて、大豆をすりづぶして作った豆汁(呉汁)が使用されてきました。
豆汁の成分は、主に大豆タンパクとデンプン、脂肪の混合物となります。
絵具や顔料を定着させるために、豆汁の大豆タンパクが役割を果たします。
卵白や牛乳なども、豆汁と同じようにタンパク質による接着剤、凝固剤としての役割をします。
目次
染色・草木染めにおける豆汁(ごじる)の効用
豆汁のメリット(利点)
植物性のタンパク質としては、大豆から作る豆汁がもっとも有用とされます。
日本においては色素を定着させるために、古くから豆汁は染色に使用されてきました。
豆汁を使用するメリット(利点)としては、以下のようなものが挙げられます。
- 濃厚な豆汁を使用することで、顔料を定着させられる
- 和紙に扱う際、和紙の全面に薄く豆汁を刷毛引きすると、和紙を水洗いする場合の補強となり、無地場の染めムラを防止する
- 木綿や絹(シルク)を型染めする場合、色の滲みを防ぐ
- 酸性染料の固着に役立ち、染料の吸収を良くする
- 刷毛染の場合、刷毛の跡が出るのを防止するのに効果的
豆汁のデメリット(欠点)
豆汁を使用するでデメリット(欠点)としては、以下のようなものが挙げられます。
- 柔らかい布地の手触りを硬くして、風合いを損ねる
- 染めの色合いが変化する(くすんだり、黒っぽくなる)
- 豆汁はアルカリに弱く、洗いの際のアルカリ処理で豆汁は簡単に溶けて落ちるため、アルカリで洗う染料には使用しない
豆汁がただ乾燥しただけのものは、水で簡単に溶けてしまうため、何もしない場合は、2〜3日放置し酸化させることによる硬化を待つのは大事な点です。
地入れして2〜3日経った後から染色を始めるのが理想で、地入れしてあまり放置しすぎるのも、硬化が進み、染液の進入を防止するようになります。
豆汁は、豆腐が苦汁で固まるように、例えば和紙に型絵染する場合も、豆汁顔料で染色したあと、乾燥させ、明礬液(1%〜2%ほど)を刷毛引きすると、豆汁が硬化されます。
そのため、2〜3日放置しなくとも乾燥したら水洗いをし、型染めで使用した糊を落とすこともできるのです。
豆汁(呉汁)の作り方
豆汁の作り方や分量について、これといったルールはありませんがポイントはいくつかあります。
まず、大豆をミキサー、またはすり鉢で水と共にすり潰す前に、大豆がつぶれやすくなるように水でふやかしておく必要があります。
例えば、25℃の室温で8時間〜10時間、18℃の室温で12時間ほど放置し、豆の内部に少しだけ硬い部分が残るくらいが適当です。
豆汁を使用する前の2〜3時間前に大豆100gに対して、500ccくらいの水でふやかすくらいでも問題ないでしょう。
すり鉢で潰すのは大変なため、ミキサーで回した方が早くて楽で、綺麗に大豆を砕けます。
ミキサーで豆汁を作る
ミキサーで豆汁を作る手順としては、以下のような流れになります。
豆汁の濃度をどれくらいにしたいかによって、水で薄める程度が変わってきます。
①水でふやかした大豆をミキサーの容量の4割くらいところまで入れ、次に水をミキサーの容量の6割くらいまで入れる
②大豆が砕ける音が変わるまで約2分間くらいミキサーを回す(最初はガリガリ音がしてミキサーが回っていたのが、大豆が砕けてあまり音がしなくなるくらい)
③ミキサーから液があふれない程度の上の方まで追加で水をいれ、約1分間再度ミキサーを回す
④例えば、1袋250gの大豆を全て豆汁にする場合、1000ccの容量を持つミキサーで③の作業を3回程度行えば、すべての大豆がミキサーで砕ける
⑤しっかりとミキサーで大豆を砕いた液を、バケツなどの容器にいれて、大豆のカスが容器の底に沈殿するまで1時間ほど待つ
⑥空のバケツ上部に布を引いてヒモでしっかりと縛って布を固定して、液を濾す準備をしておく
⑦1時間ほど経過し、余分な浮遊物のカスが沈殿したら、上澄みを静かにすくって、⑥のバケツに入れて少しずつ濾していく
上記の手順で、豆汁は作れますが、さらに薄い豆汁が必要であれば、上澄みを取り終わった後の沈澱した部分に水を加えてしっかり混ぜ、再度沈澱するのを待ってから濾していきます。
豆汁は冷蔵庫に保管しておくと、2〜3日程度の保存が効きます。
常温で気温が暑ければ暑いほど、ダメになってしまう(豆汁自体が分離したり、腐ってしまう)スピードが早くなります。
消石灰を少量加えておくと、いくらか保存が良くなり、豆汁の上澄みと塊部分の分離が起きにくくなります。
【参考文献】『月刊染織α1985年No.55』