染色において、先染め(さきぞめ)、後染め(あとぞめ)という言葉があります。
先染めと後染めの違いとしては、染色の工程を生地(布)を「織る・編む」前にするか、後でするかという点です。
目次
先染め(さきぞめ)とは?
先染めは、先に糸を染めてから織物にすることを表します。
「先に染めた」は、英語で「ingrain」といい、本来は「dyed in grain=糸の状態で染めた」という語でしたが、略されて「ingrain」となりました。
「grain」は、一般的に使われる言葉として、「種子」や「穀物」の意味があります。
また、「(穀物のようなざらざらした表面を持つ)織物」も意味し、織物の「種子」とも言える「糸」の意味にも用いられています。
このため、糸(種)を染めるから、「dyed in grain(ingrain)」は、「先染め」という意味があるのです。
また、「ingrain」は、「(考え方や習慣が深く)滲み込んだ」、「考え方や習慣などを)深く滲み込ませる」、「生まれながらの」などの意味もあります。
先染めのメリット・デメリット
先染めのメリットとしては、以下のようなものが挙げられます。
- 糸が1本1本しっかり染まっているため、色持ちが良い(堅牢度が良い)
- 糸が染まっているので、深みのある色となる
- 色糸を何色も組み合わせて、織りや編みを表現できる
先染めのデメリットとしては、以下のようなものが挙げられます。
- 後染めと比べると、染めるのに時間がかかる(コストが高くなる)
- 多くの染料を使う必要がある(コストが高くなる)
後染め(あとぞめ)とは?
後染めとは、糸の状態で染めるのではなく、一般的には縫製したり編んだりして、製品の状態になっているものを染めることを表します。
布(生地)の状態のものを染めることも後染めですが、反物を染めるので、反染め(たんぞめ)といったりもします。
製品染め
後染めの括りには入りますが、製品に仕上げたものを染色することを「製品染め」とも言います。
完全に仕上げた状態で染めると、商標ネームや品質表示マーク、ボタンなども染まってしまうため、それらは染めた後で取り付けることがほとんどです。
後染めのメリット・デメリット
後染めのメリットとしては、以下のようなものが挙げられます。
- まとめてたくさん染められるので、先染めと比べると低コストで時間がかからない
- 色やプリントのデザインを変えやすいので、流行っている色や柄をすぐに染められる
後染めのデメリットとしては、以下のようなものが挙げられます。
- 染めた糸で生地を作っていないため、後染めの場合は色のムラが発生する可能性がある
- 糸が1本1本しっかり染まっている先染めと比べると、色持ちが悪い(堅牢度が悪い)
先染めと後染めの併用
藍染は、古くから世界各地で行われ、日本人にとっても古くから藍染の青は身近な色のひとつで、全国各地に藍染をする紺屋(こんや)がありました。
経糸と緯糸とも紺色に染められた糸で織った綿布は、「紺無地」や「盲縞」、「青縞」などと言われ、労働着にも広く使用されていました。
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藍染で濃く染めるほど、生地自体も強くなるとされ、先染めで糸を染めてから織り上げられ、さらに後染めで濃紺に布(生地)を染められることもありました。
藍染において先染めと後染めを併用するのは、非常に手間と労力がかかりますが、堅牢度が良く、品質が高いため、「上紺」といえる品になります。