イタリア中部ウンブリア州ペルージャ県にある人口数百人の小さな村であるソロメオは、「世界で一番上手く行っている村おこし地域」として世界中から注目を集めています。
ソロメオは、もともと大した産業もない貧しい村でしたが、ファッションブランドの「ブルネロ・クチネリ」が本社をおいていることで、この村に住む人々の大半が同社に勤務しているのです。
ブルネロ・クチネリ社は、イタリアでの生産(made in italy)にこだわり、生み出される製品は、世界中の店舗で販売されています。
目次
世界有数のファッションブランド、「ブルネロ・クチネリ(Brunello Cucinelli)」
ファッションの分野では、ブルネロ・クチネリ(Brunello Cucinelli)は、世界で最も評価の高いブランドのひとつとしてみなされています。
ゼロからイチを生むたった1人のクリエイターが、一代でこのブランドを築き上げてきたのです。
現在は、紳士服や婦人服、子供服から雑貨、アクセサリーまで、さまざまなアイテムを総合的に展開する世界最高級のアパレル企業に成長しています。
創業者のブルネロ・クチネリ氏は、創業当初から事業の目的を「倫理的にも経済的にも人間の尊厳を追及すること」と定めました。
ブルーカラーとホワイトカラーの区別なく、世間水準を上回る給与を支給し、会社の収益は若者に技術を身に付かせるための、有給で無償の職人学校を運営や劇場、図書館、公園、農園など、村の文化や自然環境の整備に投資しているのです。
ブルネロ・クチネリ(著)『人間主義的経営』
ブルネロ・クチネリ氏の著書『II Sogno di solomeo(ソロメオの夢。私の人生と人間のための資本主義)』は、『人間主義的経営』というタイトルで日本語に翻訳されています。
彼の幼少期の生い立ちから、生まれ育った自然環境、影響を受けた過去の偉人や人々、会社経営を通して、なぜ「人間のための資本主義」を掲げて起業したのかが回顧録のように綴られています。
資本主義における格差の拡大や差別、環境問題など、現代社会における問題を是正するヒントや、社会を良くするために企業や経営者が果たすべき責任について、多くの気づきを与えてくれます。
本書を読むと、ものづくりに携わる人や企業で働く人にとって、「仕事をするとは?」、「会社経営とは?」など、ビジネスの世界で働くことの意味や意義についてや、ブルネロ・クチネリ氏の生き方や考え方、大切に作り上げてきた会社やソロメオ村の環境から、理想的な企業活動や生き方とは何かについて考えさせられます。
ブルネロ・クチネリの哲学と「人間のための資本主義」
ブルネロ・クチネリ社は、あざやかな色合いを特徴とするカシミヤセーターのメーカーとして、1978年に創業します。
1982年イタリアのウンブリアの小さな村であるソロメオに移り、そこを「人間のための資本主義」を実現する場所と定めました。
1985年には、廃墟となっていた村の古城を買い取り、本社としソロメオ村で作られた上質なカシミアニット製品を主力製品としています。
2012年、ブルネロ・クチネリ社はミラノ証券取引所に上場し、同年には、若者たちが技術を身につけ、誇りを持って働くことを願い、本社のある城の一角に職人学校を設立します。
創業者のブルネロ・クチネリ氏の哲学や理念によって、村を修復し、文化や芸術、人々の交流を促進するために劇場や図書館、公園などの施設を整備していきました。
人間の尊厳と自然との調和を事業の目的に掲げる、ブルネロ・クチネリ社の「人間のための資本主義」は、イタリア国内だけでなく、海外からも注目され、まちづくりと一体になった企業活動に共感を集めているのです。
品質、職人技、創造性、独自性、美の探求は、ブルネロ・クチネリ社が目指している価値であり、古代と現代、事業と人間の求めるものをひとつの物語に織り上げていくことが、彼らの一貫した夢なのです。
『人間主義的経営』には、ブルネロ・クチネリ社の哲学について以下のような記述があります。
私たちの会社は、その土地に住む人々に敬意を払いながら、土地の持つ潜在力を守り、引き出し、育てていくことを大切にしています。
その思想が均衡の取れた希望の持てる成果を上げ、その利益を人々に還元するという倫理的な目的を具体的な形にしてくれます。
時間と空間を新たに捉え直し、知恵、共感、着想を循環させ、明確にし、質の高い生活を創り出していく。ソロメオはその理念の実験場であり、伝統と精神の価値を再生する試みが、親しみのある明るい村の雰囲気を生み出しています。
世界中の大都市の最も高級な通りにある私たちの店舗も、小さな隠れ家のように静かでくつろいだ質の高い時間を過ごせるように設計されており、私たちの哲学である「節度」の価値を感じていただくために穏やかで洗練された接客を心がけています。『人間主義的経営』
クワイエット・ラグジュアリー(quiet luxury)の先導者であるブルネロ・クチネリ
LOUIS VUITTON(ルイ・ヴィトン)やChristian Dior(ディオール/クリスチャン・ディオール)など、数多くのブランドを持つLVMHグループのロゴ重視のメゾンとは一線を画す、「クワイエット・ラグジュアリー(quiet luxury)」の旗手として知名度を高めてきました。
クワイエット・ラグジュアリー(quiet luxury)とは、名前の通り「沈黙する(静かな)ラグジュアリースタイル」のことで、一見すると高級なものだとわからないけれど、素材の良さや仕立ての美しさから着用する人を引き立てる装いを指します。
「クワイエット・ラグジュアリー(quiet luxury)」の価値観は、バックや洋服に大きなロゴが記載されているロゴ重視のブランドとは、対極に位置するものと言えます。
ブランドロゴやモチーフを押し出さずに控えめですが、上品で高級感の漂うスタイルが「クワイエット・ラグジュアリー(quiet luxury)」なのです。
ブルネロ・クチネリの公式Youtubeチャンネルは、ソロメオ村やコレクションに関する動画などがあるので、ぜひその雰囲気をチェックしてみてください。
【参考文献】ブルネロ・クチネリ(著)『人間主義的経営』