カシミヤ(cashmere)は「繊維の宝石」とも呼ばれ、長い歴史の中で常に高品質な繊維としての高い地位を維持してきました。
カシミヤと呼ばれるのは、インド北西部の高山地帯のカシミール地方に生息しているカシミヤヤギ(カシミヤ山羊)に由来があります。
カシミヤヤギから取れる優良な毛は、絹(シルク)に似た光沢を持ち、繊維もしっかりしており(強靭)、滑りが良いのが特徴的です。
目次
カシミヤ(cashmere)とは?
カシミヤは、インド亜大陸の北西に位置する地方名である「カシミール(Kashmir)」からきています。
カシミール地方は、ほとんどが険しい山岳地帯で、大部分が不毛な乾燥地帯ですが、ヒマラヤ山脈とピル・パンジャル山脈に挟まれたカシミール渓谷一帯は、インダス川とその支流による農業、牧畜が盛んに行われてきました。
地名のカシミールの由来は、伝説(神話)によると、太古の昔、この地方に住んでいた英雄の「カシャパ(kashapa)」が山を切り開き、山間の湖をインダス川と結び付けました。
湖は、「カシャパミラ(kashapamira)=カシャパの海」と呼ばれましたが、やがて乾き上がって広大な土地になりました。
その古名の訛ったものが、カシミールの由来とされます。
カシミヤ山羊(カシミールゴート)の原産は、チベットとされます。
ヨーロッパで流行したカシミヤショール(cashmere shawl)
18世紀にイギリスの東インド会社によってカシミヤ織物(カシミヤショール)がヨーロッパにもたらされ流行しました。
これの多くは、勾玉模様でした。
勾玉模様は、のちに「ペイズリー」と呼ばれるようになり、ペイズリーの名前は、勾玉模様のショールを大量に模造したスコットランドのペイズリー市(Paisley)の名前が由来です。
ペイズリーでは、インドのカシミール地方で生産されていた緻密で色や模様も多彩のショールを模倣したカシミヤのショールを大量に生産し、世界的な繊維織物産業の生産都市となりました。
ヨーロッパにもたらされたカシミヤショールは、19世紀になって特にフランスで大流行し、貴婦人から下女にいたるまでショールを追い求めたのです。
このため、フランス語でも「cashmere」といえば、カシミヤショールを表しました。
大流行した理由としては、贅沢の誇示やエキゾチシズムもありましたが、当時は透けて見える衣服(シースルー)が流行しており、防寒目的で軽くて暖かい大型のショールが求められたという背景もあったのです。
カシミヤヤギの産毛(うぶげ)から生まれるカシミヤ
カシミール地方で産出するヤギの毛で織り上げられた肩掛けが、18世紀に大流行して多くの人にカシミヤの優れた性質が知られていきました。
カシミール地方のヤギは、厳しい気候条件を生き抜くために、外側まで伸びる太い「刺毛」と内側の繊細でやわらかい「産毛」が生えています。
毎年春の終わりに、暑い季節を迎える準備として脱毛期に入ります。この季節にくしのような道具をつかって産毛をすき、それがカシミヤの原料となります。
実際には、太い刺毛もいっしょに収穫されますが、きちんと産毛だけを選別します。
羊毛の表面は、人の髪の毛のようにスケールと呼ばれる鱗状になっており、この構造が水を弾き吸湿性を与える要因となっていますが、カシミヤは一般的な羊毛(ウール)よりもはるかに繊細です。
繊維も、直径15ミクロンと細いのも特徴的です。
一頭あたりの採毛量は約250gと少なく、いかに貴重品であることがわかります。
カシミヤヤギは、インドのカシミール地方だけでなく、チベット、モンゴル、中国、イラン、ロシアなどの乾燥した寒冷山岳地帯で飼育されています。
カシミヤ繊維の特徴
カシミヤ繊維の特徴としては、繊維が細くて軽く、伸縮性に優れ、肌ざわりが非常になめらかで柔らかいです。
保温性や保湿性、吸湿性にも優れ、繊維の油分によって、触った時にしっとり感(ヌメリ感)があります。
ウールに比べて繊維を覆うスケールのデコボコが少なく、光を反射しやすいため、シルクのような美しい光沢感が特徴的です。