山野に自生する薇(ゼンマイ)(学名:Osmunda japonica)は、山菜料理の「ふるさとの味」として人々に親しまれていますが、薇(ゼンマイ)の綿を使用した織物が織られていました。
薇織とは、薇(ゼンマイ)は春先に、頭部から綿が生じますが、その綿から糸を紡いで織りあげた織物です。
古くは、東北地方の山間部で、自家用の衣類として織られていました。
薇織(ぜんまいおり)の歴史
東北地方の寒冷地のため綿花の栽培がほとんどできず、農漁民の日常衣類は苧麻や麻から織り上げた麻布でした。
もちろん、木綿の布や糸は北国にも流通していたものの、貧しい庶民にとっては高価でなかなか手を出せるものではなかったのです。
そこで、ぜんまいの綿に注目して布を作るというのは自然の流れだったのでしょう。
薇織の歴史は、300年ぐらいとされていますが、ぜんまいの綿は毛足が短く、織りにくいことから、綿花(木綿)や真綿(絹)の繊維を混ぜて糸を紡いでいました。
山形県温海町関川と、新潟県山北町山熊田で作られた薇織は、縦糸に絹糸を用い、緯糸にぜんまい綿と真綿の混紡糸が使用されていました。
秋田県岩城町亀田で作られたものは、歴史が古く、古来からの手法が伝承され、経糸に綿糸を用い、緯糸にぜんまい綿と綿花の混紡糸が使ったもので織られていました。
この地方で、昭和の初期ごろまでは盛んに織られていたものに「薇白鳥織」がありました。
薇白鳥織は、明治時代の中頃に、もともと御用商人であった佐藤雄次郎によって考案されたもので、経糸に綿糸、緯糸に薇の綿と、綿花、白鳥の羽毛の3種の混紡糸を使って織られていました。
薇織(ぜんまいおり)の特徴
薇織の特徴としては、丈夫で防水性に優れ、虫に食われにくい(防虫性)とされていました。
ウールのような質感もあるため、きものやコートにも用いられていました。
薇織(ぜんまいおり)の技法
晩春の5月ごろに、山に入ってぜんまいの若芽を摘み、薇の綿を採取します。
3日から4日ほど日陰干しをしながら、綿に付着しているゴミを取り除きます。
この薇の綿に、綿花や真綿の繊維を混ぜたものを手で紡いで緯糸に用いるのです。
山形県の温海町関川の薇織は、薇の綿を4割、真綿6割の割合の混紡糸を緯糸に、経糸を絹糸にして手織りされていました。
秋田県岩城町亀田産のものは、薇の綿を3割、綿花7割の割合の混紡糸を緯糸に、経糸を綿糸にして織られていました。
【参考文献】荒木健也(著)『日本の染織品 歴史から技法まで』