福木(Garcinia subelliptica)は、琉球紅型(びんがた)に使用される沖縄で有名な染料植物の一つです。
フクギの属名(Garcinia)は、フランスの植物学者ガルサン(Laurence Garcin)の名前に由来しています。
日本においては、奄美大島や沖縄、八重山諸島などに分布し、同属の植物も世界中の熱帯や亜熱帯地方に分布しています。
福木の木は硬く、虫害の影響を受けにくいため、建築材に使用されてきました。
また、台風や潮風、火災、干ばつなどの厳しい環境に耐えうる強さを持っているので、沖縄では古くから防風・火が燃え移らないようにする防火を兼ねた生垣や、防潮林などとして道路や沿岸に植えられてきました。
5月〜6月ごろ黄色の花を小さく咲かせ、果実は食用にはなりませんが、球体で直径3センチくらいの大きさで、熟すと黄褐色になり、中に3、4個の種子ができます。
染色・草木染めにおける福木(フクギ)
染色に使用するのは、黄色色素を含有している樹皮です。
フラボン系のフクゲチンと呼ばれる黄色の色素が樹木の中心に近い心材や樹皮中に多く含まれていて、インドなどでも同属の植物は、黄色の染料に使用されることがあります。
日本においては、紅型、琉球紬、久米島紬などの黄色染めに使用されてきました。
上村六郎著『民族と染色文化』によると、樹皮を煮出した染液は、石灰(アルカリ)媒染か明礬媒染で黄色に、クロム媒染で帯赤黄色に、鉄媒染でオリーブ褐色、銅媒染でオリーブ黄色、錫で帯赤褐色に染まることが記されています。
福木による染色は、ヨーロッパにおける最古の黄色染料として名高いモクセイソウ(Resedaceae)に似ていて、染まり具合はモクセイソウより良いとも言われています。
琉球紅型においては、福木、蘇芳、藍、楊梅、槐、鬱金、紅花などの植物性染料や、エンジムシの雌から採取する赤色染料である臙脂(コチニール)などの動物性染料、ヒ素の鉱石鉱物の一つである石黄や酸化第二鉄を主な発色成分とするベンガラなどの鉱物染料などが使用されます。
福木は主に明礬で媒染してから、紅型における黄色の地染めや色差しに使用されます。
福木は、苅安と同じように、藍に重ねて染めることで緑色にすることもできます。
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福木の染色方法の一例
採取した福木の皮を細かく砕き、浸る程度に水を加えて、20分〜30分前じて、1番液を取ります。
同様に繰り返して、3番液までとり、1番〜3番液を混ぜて染液とします。
染液を加熱して、50度くらいになったら、前もって浸透させておいた糸を入れ、竹棒などでムラにならないように適度に糸を動かしながら15分〜20分煮染めします。
その後、別の容器に染液を移し、糸を浸したまま液が自然に冷めるまで放置します。
2〜3時間後、染液から糸を取り出して絞り、糸量に対して、0.2パーセント前後の媒染液に20分〜30分浸します。
使用した染液を再び火にかけ、媒染が済んだ糸を再度入れて、15分〜20分煮染めします。
その後、前回と同じように、染液が冷めるまで糸を放置します。
その後水洗いして乾かして、1回目の染色を終えます。
糸は、風通しの良い室内で乾かしておき、2〜3日経ってから、2回目、3回目と染色を繰り返していきます。
絹糸であれば、2回染めれば比較的いい色に染まっていきます。
鮮やかな黄色を得たい時は、1回目の媒染で明礬を使用し、2回目の媒染では錫媒染をします。
薄目の鉄媒染の場合、鶯色に染まります。
福木の薬用効果
同属で、果実の女王と言われるインドネシア原産のマンゴスチン(Garcinia mangostana)の果実の皮には、タンニンやポリフェノールの一種で抗酸化作用があるキサントンを含んでいます。
そのため、乾燥させて粉末にしたものは、東南アジアで古くから自然薬として使用され、収れん剤や皮膚病の治療薬、下痢止めとして薬用に使用されたりしました。
煮出すことで、アルカリ性で黄色に、酸性で黒褐色に染まり、インドネシアのジャワ更紗に使用されたりします。
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中国南部に分布している、嶺南山竹子(Garcinia oblongifolia Champ)や木竹子(Garcinia multiflora)の樹皮は、消炎や痛み止め、収れん薬などに使用されていたようなので、日本の福木にも薬用効果を見出せることでしょう。
【参考文献】『月刊染織α1981年10月No.7』