顔料は、科学的に染め付くのではなく、物理的に染めつけることで色が定着します。
顔料は、水に溶けない不溶性のため、膠着剤と呼ばれる顔料を染める対象物に付着されるための助剤が必要になるのです。
目次
膠着剤(こうちゃくざい)の種類
膠着剤には、蜜蝋、木蝋、膠、卵白、豆汁(呉汁)、ゼラチン、アラビアゴム、油、こんにゃく粉、わらび粉などがあります。
食品と関わりあるものが多いのは、古くから食料の粘りや接着力を活用しようとしたと考えられます。
豆汁は、すりつぶした大豆をしっかりと漉した汁のことです。
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卵白、牛乳、豆汁はそのまま使用し、膠、ゼラチン、アラビアゴムなどは、水に溶かしたものを使用します。
膠は、獣類の骨や皮、その他のものを水で煮てできた液を固めたものです。
顔料などを使って着色する際に、色素を定着させるための色止めの役割が膠にはあります。
顔料を練り、だんだんと延ばしていき、最適な濃度になったものを筆や刷毛で手描きするか、版面に塗って転写します。
インドでは、牛乳や山羊乳をザクロやミロバランの液と混ぜて、その液に生地を浸して下処理をすることで、染め付けをよくしていました。
日本では、豆汁を滲ませるか刷毛引きした上から、膠着剤で練った顔料で染めていきます。
膠着剤を使用する際に注意点としては、気温が挙げられます。
日本においては、常温で膠を使う場合にはすぐ固まってしまいます。
常に温めていないと使えないのは不便であり、常温で使えるような豆汁が発達していきました。
膠着剤の役割
膠着剤で顔料を練る場合は、色の粒子を膠着剤の膜で包むようなイメージです。
包まれることで、顔料がむき出しの状態のときよりも摩擦に強くなります。
布の上にいきなり木版で模様を転写した際、その布が浸透力の強い繊維であると、顔料が繊維に沿って滲んできれいに模様が出なくなることがあります。
うまく模様を出すためには、膠着剤の粘り具合を加減する必要もあります。
生地を染める際の膠着剤に油を使わないのは、油が生地に滲んで汚くなる可能性があり、油は酸化しやすいので、生地がもろくて弱くなる可能性があるためです。
膠着剤が色に与える影響
膠着剤の透明度は、顔料に色に影響を与えてきます。
こんにゃく粉では色が黒ずんでくる傾向があります。呉汁やゼラチンなどでは若干くすむこともありますが、ほとんど影響がないと言えます。
使用する膠着剤のタンパク質によって、色にツヤが出てくることもありますし、コーティングすることで色のトーンが若干下がったような落ち着いた色になることもあります。
膠着剤と顔料を別々に使用する
顔料と膠着剤を一緒に練ってから使用するのではなく、膠着剤と顔料を別々に使用して染めつける方法があります。
衣類に顔料を定着させるためには、生地の芯まで刷毛につけた顔料を擦り込むようにして染め付けていくのが一般的です。
友禅染めの場合は、地入れと呼ばれる生地に呉汁を引く作業をしてから、色を挿していきます。
地入れをすることで、染料のにじみを防いだり、生地に染料を染み込みやすくなったり、防染糊を生地に定着させる働きがあるのです。
また、膠着剤で生地の上に模様を描いたり、版で押した上に、金や銀、金粉などを散らす装飾技法は、摺箔・印金などと呼ばれます。
【参考文献】岡村吉右衛門(著)『世界の染物』