羊毛や獣毛の特徴的な性質として、湿潤熱の発生が挙げられます。
湿潤熱とは、羊毛の繊維が水分を吸収する際に(湿潤)によって、放出する熱のことです。
湿潤熱を実感として感じたことがあるという人は、ほとんどいないと思いますが、実話として、水浸しになったウールを保管している倉庫が中にはいれないほど熱気に包まれたり、雨に打たれた毛織り物が凍っても濡れ雑巾のようにはならなかったために、雪山で人が救われたということがあるようです。
湿潤熱の発生熱量
実際にどれくらいの熱を発生するのか、『21世紀へ、繊維がおもしろい』には、下記のようにあります。
スケールの除去されていない新生羊毛1kgが18℃・45RHの状態から5℃・95RHの状態に置かれると、総発熱量は実に10万カロリーに及ぶと概算され、これは人体一時間のエネルギー代謝熱量に相当する。
スケールとは、毛の表面が松の木の皮のようなうろこ状の形しているもので、羊毛の特徴や特性に大きな影響を与えています。
RHは、相対湿度(=relative humidity)の略で、含むことができる最大の水蒸気量に対して、現在の水蒸気量はどれくらいかを表したものを言います。
1kgの羊毛が、10万カロリー分の熱量を発生させるポテンシャルがあるというのは驚きです。
素材自体があったかいのはもちろんですが、毛織り物が防寒用に適している由来の一つがこの湿潤熱を発生させる性質にもあるのです。
そもそも羊毛があったかい理由
羊毛の特徴としては以下のようなものが、挙げられます。
・湿潤熱(水分を吸収する際に放出する熱)の発生熱量が他の素材より高い
・軽くて手触りがふんわりとやわらかい
・あたたかく保温性が高い
・弾力性(外力が加わって変形した物体が、もとの形に戻ろうとする力)に優れており、シワになりにくく、型くずれしにくい
・ウールの表面は疎水性(水をはじく)でありながら、抱水力(水分を抱え込む力)がある。
・引っ張りや摩擦に弱い
・熱に対して100℃で硬化、130℃で分解、300℃で炭化する
・耐光性はあまりよくなく、長時間に日光に当たると繊維が弱くなる
・金属イオンを吸着しやすい
・塩基性、酸性、酸性媒染、金属錯塩、天然など各種染料によく染まる
では、そもそも羊毛があったかく感じる理由は、どういうところにあるのでしょうか。
答えとしては、毛の構造にあります。繊維全体に細かい波形の巻縮(クリンプ)が無数にあり、一本一本の毛が複雑に絡み合うことで繊維に空気が溜まり、その空気の層によって大きな断熱性を持つことができるのです。
細い羊毛ほど縮れの程度が強く、良質な羊毛とされています。
ウールは「生きている繊維」
羊毛は、疎水性(水をはじく)でありながら、抱水力(水分を抱え込む力)である相反する性質をもっていますが、これはスケールが水をはじくけれど、スケールの隙間から湿気が吸収性に富む内部組織(コルテックス)へ吸収されるためです。
コルテックスの構造は、オルソコルテックスとパラコルテックスが張り合わさった2層(バイラテラル)構造になっています。
オルソコルテックスは、水を吸いやすく膨張しやすい性質があり、パラコルテックスは、水を吸いにくく膨張しにくいため、水分を含んだ際にそれぞれの膨張性に違いがあるのです。
コルテックスに水分を吸収され膨張していくと、スケールは開き放湿されます。またコルテックスの水分が減少すると、スケールは閉じることによって、羊毛が適切な水分状態に保たれます。
私たちの身近にあるウール製品は、このように「生きている繊維」とも言えるのです。