現代の日本において、「コルセット」といえば、腰を保護して固定するために装着するなどの器具を示すのが一般的です。
フェッション・服飾におけるコルセット(corset)は、乳房を支え、ウエストや胴を引き締めることを主たる目的とし、特に16世紀から20世紀初期までヨーロッパにおいて主に用いられていました。
初期は、「ステイズ」や「ボディス」などとも呼ばれ、「コルセット」という語が定着したのは18世紀からとされます。
目次
フェッション・服飾におけるコルセット(corset)
コルセットの語源は、印欧祖語(インド・ヨーロッパ語族の諸言語の共通の祖先とされる理論上の言語)の「krep=身体」で、ラテン語の「corpus=身体、物体、骨格」→フランス語の「コルセ(corset)」を経由して、1265年に「(ぴったりした)上着」の意味で文献に初出しています。
18世紀になって胸から胴、腰回りまでの「体の中心部分を固定する道具(コルセット)」という意味になりました。
コルセットの由来
コルセットのようなものは、紀元前10世紀以前のクレタ島の古代文明に胸や胴に巻いた幅広の布が見られます。
ヨーロッパにおいては、12世紀ごろから次第にぴったりとした体にフィットするような衣服になり、体の細さが強調されるようになってきました。
このため、胸や腹を締め付け、乳房を整える目的でコルセットが出現したと考えられます。
コルセットが長年に渡って着用され続けた理由
コルセットが長年に渡って着用され続けた理由は、さまざま挙げられます。
- 宗教上の禁欲的な意味から、胸を小さく見せるため
- 乳房を下支えするため
- 出たお腹を隠すため
- 保温・防寒のため
- 姿勢を良くするため
- 富貴や高貴の象徴だった
コルセットの歴史
16世紀以降、ヨーロッパにおいて女性のファッションはバストとヒップを強調することが理想とされたことから、特にウェストの細さを競うようになります。
フランス革命(1789年〜1799年)後、その傾向は一時的に止みましたが、19世紀に入って間もなく、再び女性は若い頃から骨や金属の支柱を入れた、固く丈夫な仕立てのコルセットで胴を締め上げたのです。
その当時の理想のウェストは、45cm前後とされていたようです。
ゆとりがなく、自由に身動きがとれないコスセットは、明かに拷問具と言っても良いものであり、屈むことも呼吸するだけでも苦しいくらいだったようです。
上半身が曲がらないため、お辞儀ができず、直立したまま膝を曲げて屈むという礼法になったのもコルセットが理由として挙げられます。
肋骨や内臓器官を圧迫してゆがめるほどのものであったため、胃炎や便秘、月経不順の原因にもなっていたようです。
コルセットが由来となる不健康性については、18世紀中頃から指摘され、非難されていたようです。
しかし、貴婦人のコルセットは、背で締め上げるようになっており、小間使いを必要とするため、富貴や高貴の象徴であったことや、宮廷儀礼での長時間の立ちっぱなしで姿勢を良くするのにも有用であったことなどの理由もあって、この慣習は続きました。
コルセットは下着とは限らず、表着として着るタイプのものもありました。
これはベストやウェストコート、チョッキとも言えるものですが、男性も用いることがありました。
コルセットを着用するという慣習が薄れてきたのは、胸や胴を締め付け過ぎるという健康に関する懸念点や女性の社会進出によって動きやすく、活動的な装いが要求されたことなどからです。
1906年、パリのポール・ポワレが初めて胴を絞らないドレスを発表しましたが、それでも簡単にはコルセットを着用する慣習は廃れませんでした。
ちなみにコルセットは硬く、武骨なものであるため、それを隠す必要性から中着としてキャミソール(コルセットカバー)が生まれています。
また、コルセットは当初、乳房を下支えする形でしたが、動きやすさの必要性から次第に短くなっていったため、肩吊り型の「ブラジャー」が登場することになります。
第二次世界大戦(1939年〜1945年)後、簡易コルセットとして、「ウェストニッパー」や「ゲピエール」がパリモードに登場に、一時かなり取り入れられました。