ハンモックは、ブラジルにおいてハマック(hamack)という木の皮で網を作って寝たことが、その名前の由来であると言われます。
スペイン語でハンモックは、ハマカ(hamaca)と呼ばれ、メキシコのカンペチェやユカタン半島などで広く使用されてきました。
ハンモックに使用された緑の黄金、エネケン繊維
ハンモックに使用される繊維は、中米原産のエネケン(学名Agave fourcroydes)と呼ばれるリュウゼツラン亜科の一種です。
スペイン人が到来し、征服するとき(1521年)より前からメキシコで生活していた人々は、エネケンの葉から繊維をとり出し、紐や縄、袋などにしていました。
エネケン繊維は、ユカタン半島などでは「緑の黄金(green gold)」とも呼ばれていました。
エネケンは、パイナップルに似た短い茎がある作物の上部から、灰色がかった緑色で、堅く多肉質(葉や茎など、植物の一部が肥大し、肉厚になる性質)の葉が成長します。
葉は長さ2mほどにもなり、葉の両側にはトゲがあり、靭皮繊維が含まれます。
靭皮繊維とは、植物の茎から採取される繊維のことで、茎の外側にある靱皮部に繊維が存在します。
エネケンに近いサイザル(学名Agave sisalana)は、キジカクシ科リュウゼツラン属の植物で、エネケンと違いトゲがありません。
メキシコやキューバではエネケンが栽培され、サイザルはさまざまな用途で使用できるため、世界中で栽培も行われてきました。
1780年ごろから、スペインにエネケンでできた製品が持ち出されるようになり、1811年には輸出品として、ハンモックや袋物、敷物や荷鞍(馬や牛の背に据えて荷物を載せたりするための道具)など600万ドル規模の取引がなされていました。
メキシコ、ユカタン半島のメリダ周辺ではエネケン繊維の世界的な供給地として、1916年ごろに最盛期を迎えながら、1960年以降にはアフリカにおける生産量の拡大と、合成繊維の普及によって価格の下落が起こりました。
現在では、綿やナイロンなどの素材を使用し、色のバリエーションも豊かなハンモックが主流になっています。
ハンモックの優れた機能性
ハンモックの使用方法としては、屋内に吊るす場合は、柱や梁、野外では木にブランコを吊るすように取り付けて使用します。
ハンモックは、一般的に伸縮性があり、通気性を良くするために長い網目状になっています。
エネケン製が主流を占めていた頃は、柔らかい感触を求めるためにハンモックを二重にしたり、薄い布を添わせるなどの工夫もされていました。
ハンモックが生まれ、利用されてきた要因として機能的な面から優れた性質をいくつか挙げられます。
- 熱帯地域で、特にジメジメと湿気の多い地域では、通気性が必要とされ、吊るされた状態が衛生的である
- ふとんやシーツなどの寝具が不要なため、経済的
- ベッドやふとんのような寝具に比べて、室内の占有面が少ない
- 持ち運びがしやすい
日本で歴史的にハンモックが普及しなかった理由
現在では、ハンモックにもさまざまな素材の商品が出回っていますが、歴史的にみるとハンモックのような道具は、日本で普及していませんでした。
理由としては、春夏秋冬と四季を備えた日本の気候や、畳による生活様式が一般的であった点などが挙げられます。
用途は違いますが、麻でできた寝具として、蚊帳は、一般的に使用されていました。
【参考文献】『月刊染織α1985年No.54』