デザインにおけるカーネーション


カーネーション(学名Dianthus caryophyllus)は、原産地は南ヨーロッパおよび西アジアの地中海沿岸地域といわれ、古代ギリシャ時代から栽培されていました。

学名の「ダイアンサスDianthus」は、ギリシャ語で「神聖な花」という意味です。

現在、花の日にカーネーションを送るのは、カーネーションが愛の花のシンボルとされているためです。

カーネーション,BBC Gardeners World - 2017-06-15 - Andy Mabbett - 19

カーネーション,Andy Mabbett, CC BY-SA 4.0 <https://creativecommons.org/licenses/by-sa/4.0>, via Wikimedia Commons,Link

デザインにおけるカーネーション

キリスト教では、カーネーションは、結婚や純愛を象徴する花とされています。

初期ルネサンス期のイタリア人宗教画家であるフラ・アンジェリコ(Fra’ Angelico)の作品である、『受胎告知じゅたいこくち』には、左の庭にカーネーションとライラックの花が描かれています。

フラ・アンジェリコ,「受胎告知」ANGELICO, Fra Annunciation, 1437-46 (2236990916)

フラ・アンジェリコ,「受胎告知」.Fra Angelico, CC BY 2.0 <https://creativecommons.org/licenses/by/2.0>, via Wikimedia Commons,Link

イタリアのフィレンツェ生まれの画家である、サンドロ・ボッティチェッリSandro Botticelli(1445年〜1510年)の作品である「春(プリマヴェーラ)Primavera」の、右から三番目にいる「花の女神」フローラの衣装には、カーネーションがいくつも描かれています。

サンドロ・ボッティチェッリ,春(プリマヴェーラ),1482年頃制作,Sandro Botticelli - La Primavera - Google Art Project

サンドロ・ボッティチェッリ,春(プリマヴェーラ),1482年頃制作,Sandro Botticelli, Public domain, via Wikimedia Commons,Link

15世紀〜16世紀に発達したヨーロッパ産のタペストリーには、当時の庭園や野原に咲いていた草花が数多く織り込まれており、その中にもカーネーションの姿を見られます。

ヨーロッパ・タペストリーの傑作とも言われる、『貴婦人と一角獣』にも、水仙すいせんやあやめ、バラ、桜草、すみれ、百合などに混じってカーネーションが描かれています。

貴婦人と一角獣,(Toulouse) Mon seul désir (La Dame à la licorne) - Musée de Cluny Paris

貴婦人と一角獣,Musée de Cluny, Public domain, via Wikimedia Commons,Link

16世紀、ヨーロッパのフランドル地方で栄えた美術の流派である「フランドル派」の画家たちは、数多くの生花を描き、「花の画家」と呼ばれましたが、彼らの作品にもカーネーションが多く登場します。

ヤンプリューゲル(Jan Brueghel de Oude)の『花』には、バラ、チューリップ、ユリ、アイリス、水仙すいせんに混じってカーネーションが描かれています。

ヤンプリューゲル,『花』,Jan Brueghel de Oude - Flowers in a Wooden Vessel - Google Art Project

ヤンプリューゲル,『花』,Jan Brueghel de Oude, Public domain, via Wikimedia Commons,Link

17世紀以降も数々のカーネーションが描かれ、例えば、バロック絵画を代表する画家の一人であるレンブラント・ファン・レインRembrandt Harmenszoon van Rijn(1606年~1669年)の「カーネーションを持つ若い女性(Young Woman with a Carnation)」では、カーネーションがメインのモチーフになっています。

レンブラント・ファン・レイン「カーネーションを持つ若い女性(Young Woman with a Carnation)」,Workshop of Rembrandt van Rijn - Young Woman with a Carnation - Google Art Project

レンブラント・ファン・レイン「カーネーションを持つ若い女性(Young Woman with a Carnation)」,Statens Museum for Kunst, Public domain, via Wikimedia Commons,Link

絵画だけでなく、染織品にも、歴史的にカーネーションがモチーフとなった作品が多くあります。

19世紀初頭、スコットランドのペイズリー(Paisley)で、カーネーションの栽培が盛んに行われました。

ペイズリーでは、インドのカシミール地方で生産されていた緻密で色や模様も多彩のショールを模倣したカシミヤのショールを大量に生産し、世界的な繊維織物産業の生産都市となりました。

「ペイズリー柄」とも言われるようになる、精巧で緻密なデザインのショールを織るかたわら、白と赤のカーネーションを栽培することにペイズリーの人々は熱中したようです。

日本のデザインにおけるカーネーション

カーネーションは、日本における撫子なでしこで、ナデシコ科ナデシコ属の植物の総称名で、「ダイアンサス(Dianthus)」とも呼ばれることがあります。

撫子(なでしこ),Dianthus hyssopifolius 2

撫子(なでしこ),Dianthus,© Hans Hillewaert,Link

ただ、カーネーション〔Dianthus caryophyllus〕は、日本におけるなでしこの仲間ですが、園芸では一分野として確立されているため、なでしことは別物として考えるのが一般的です。

日本に自生する代表的な撫子なでしこ河原撫子かわらなでしこ〔D. superbus var. longicalycinus〕があり、そのまま撫子なでしこ大和撫子やまとなでしことも呼ばれます。

撫子なでしこは、秋の七草の一つとして古くから、日本人に親しまれてきました。

7世紀後半から8世紀後半にかけて編集された、現存する日本最古の歌集である『万葉集まんようしゅう』には、撫子なでしこを詠ったものが23首あります。

撫子なでしこは、夏が終わり、寂しい秋を迎える風情の花として歌に詠まれていたのです。

また、撫子なでしこの模様は、安土桃山時代の「高台寺蒔絵こうだいじまきえ」に秋草の菊、桔梗ききょう女郎花おみなえしはぎなどと共に撫子なでしこが描かれています。

参照:秋草蒔絵楾

染織品にも撫子なでしこの模様が使用され、能衣装や小袖などの、デザインのモチーフにされてきたのです。

【参考文献】『月刊染織α1985年No.55』


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