カーネーション(学名Dianthus caryophyllus)は、原産地は南ヨーロッパおよび西アジアの地中海沿岸地域といわれ、古代ギリシャ時代から栽培されていました。
学名の「ダイアンサス」は、ギリシャ語で「神聖な花」という意味です。
現在、花の日にカーネーションを送るのは、カーネーションが愛の花のシンボルとされているためです。
デザインにおけるカーネーション
キリスト教では、カーネーションは、結婚や純愛を象徴する花とされています。
初期ルネサンス期のイタリア人宗教画家であるフラ・アンジェリコ(Fra’ Angelico)の作品である、『受胎告知』には、左の庭にカーネーションとライラックの花が描かれています。
イタリアのフィレンツェ生まれの画家である、サンドロ・ボッティチェッリ(1445年〜1510年)の作品である「春(プリマヴェーラ)」の、右から三番目にいる「花の女神」フローラの衣装には、カーネーションがいくつも描かれています。
15世紀〜16世紀に発達したヨーロッパ産のタペストリーには、当時の庭園や野原に咲いていた草花が数多く織り込まれており、その中にもカーネーションの姿を見られます。
ヨーロッパ・タペストリーの傑作とも言われる、『貴婦人と一角獣』にも、水仙やあやめ、バラ、桜草、すみれ、百合などに混じってカーネーションが描かれています。
16世紀、ヨーロッパのフランドル地方で栄えた美術の流派である「フランドル派」の画家たちは、数多くの生花を描き、「花の画家」と呼ばれましたが、彼らの作品にもカーネーションが多く登場します。
ヤンプリューゲル(Jan Brueghel de Oude)の『花』には、バラ、チューリップ、ユリ、アイリス、水仙に混じってカーネーションが描かれています。
17世紀以降も数々のカーネーションが描かれ、例えば、バロック絵画を代表する画家の一人であるレンブラント・ファン・レイン(1606年~1669年)の「カーネーションを持つ若い女性(Young Woman with a Carnation)」では、カーネーションがメインのモチーフになっています。
絵画だけでなく、染織品にも、歴史的にカーネーションがモチーフとなった作品が多くあります。
19世紀初頭、スコットランドのペイズリー(Paisley)で、カーネーションの栽培が盛んに行われました。
ペイズリーでは、インドのカシミール地方で生産されていた緻密で色や模様も多彩のショールを模倣したカシミヤのショールを大量に生産し、世界的な繊維織物産業の生産都市となりました。
「ペイズリー柄」とも言われるようになる、精巧で緻密なデザインのショールを織るかたわら、白と赤のカーネーションを栽培することにペイズリーの人々は熱中したようです。
日本のデザインにおけるカーネーション
カーネーションは、日本における撫子で、ナデシコ科ナデシコ属の植物の総称名で、「ダイアンサス(Dianthus)」とも呼ばれることがあります。
ただ、カーネーション〔Dianthus caryophyllus〕は、日本におけるなでしこの仲間ですが、園芸では一分野として確立されているため、なでしことは別物として考えるのが一般的です。
日本に自生する代表的な撫子に河原撫子〔D. superbus var. longicalycinus〕があり、そのまま撫子や大和撫子とも呼ばれます。
撫子は、秋の七草の一つとして古くから、日本人に親しまれてきました。
7世紀後半から8世紀後半にかけて編集された、現存する日本最古の歌集である『万葉集』には、撫子を詠ったものが23首あります。
撫子は、夏が終わり、寂しい秋を迎える風情の花として歌に詠まれていたのです。
また、撫子の模様は、安土桃山時代の「高台寺蒔絵」に秋草の菊、桔梗、女郎花、萩などと共に撫子が描かれています。
参照:秋草蒔絵楾
染織品にも撫子の模様が使用され、能衣装や小袖などの、デザインのモチーフにされてきたのです。
【参考文献】『月刊染織α1985年No.55』