斧は、日本の昔話に登場する金太郎が持っている鉞(まさかり)の小さい形のものです。
木材を割るのに用いられ、物を断つのに用いるため「断の意味」を表すとされ、中国では「国王の決断の意の象徴」とされました。
デザインにおける斧(おの)・斧琴菊文 (よきこときくもん)
服飾の模様(文様)としての斧(斧文)は、中国では黄帝の時代から「袞冕十二章」の一つとして天子の裳の模様(文様)に用いられ、これは日本にも伝えられました。
「袞冕十二章」の「袞」というのは帝王の特別の礼服、「冕」というのは帝王の特別な冠、十二章というのは、帝王の権威を表す十二の図案を表すようです。
日本においても斧は模様(文様)に用いられ、斧は「よき」とも呼ばれることから、斧(よき)と琴と菊の花の模様を染め出して「良き事聞く」という吉祥(縁起がよい)の意味を込めたデザイン(斧琴菊文 )が生まれました。
江戸時代に「判じ物(はんじもの)」と呼ばれる文字や絵画に隠された意味を当てるなぞ解きが流行しましたが、判じ物文様(はんじものもんよう)の一つとして「斧琴菊文 」が知られていました。
江戸時代の初期ごろから小袖の模様(文様)に斧琴菊文 が使われていたようです。
文化6年(1809年)から文化10年(1813年)にかけて刊行された滑稽本である『浮世風呂(うきよぶろ)』には、「よきことをきくといふ昔模様。謎染の新形浴衣」というような記述があります。
滑稽本とは、江戸時代後期の文化・文政期(1804年〜1830年)を中心に流行した小説の一種で、江戸の町人の日常生活に取材し、主として会話を通じて人物の言動の滑稽さが描写されていました。
「謎染」とは、謎の意味を持たせた絵模様を染め出した布地を表します。
後に歌舞伎衣装の模様(文様)にも斧琴菊文が採用され、人々の間でも好まれて使用されるようになりました。
デザインとして多くは、斧と菊を図柄で表現し、琴が文字で表現されていたようです。