シルクの素材を扱う上で、「家蚕(かさん)」、「野蚕(やさん)」という言葉に出会います。
野生であったものを人工的に繁殖させたり、品種改良しながら飼育された蛾が「家蚕(かさん)」と呼ばれ、野生に生息していたり、野生に近い状態のマユをつくる昆虫類を「野生絹糸虫」と総称し、その中で特に実用的なマユをつくる品種を「野蚕(やさん)」と呼んでいます。
野蚕シルクの種類
野蚕は生物分類学上、鱗翅目(シンシモク)の蛾類に属していますが、大きく分類しますと、6種類に分類できます。
カイコガ科・・・カイコ(家蚕)、クワコ(桑蚕)、インドクワコなど
ヤママユガ科・・・サクサン(柞蚕)、ヤママユガ(天蚕)、クスサン(樟蚕)など
ギョウレツムシ科・・・アナフェサンなど
カレハガ科・・・カレハガ、オビカレハなど
ミノガ科・・・チャミノガなど
ヤガ科・・・キノカワガ、ハイイロリンガなど
この中で、特に実用的なマユをつくる野蚕がヤママユガ科に属しており、マユをつくる蛾類の多くは熱帯や温帯地域に生息しています。
マユの色や形、大きさもそれぞれ違いがあり、家蚕のマユは人間の都合の良いように淘汰改良されてきたため白色ですが、本来野蚕のマユは、天敵から身を守るために、タンニンによって茶色味ががったものや、フラボン系色素によって黄緑色をしているのが普通です。
日本におけるシルクは白、というイメージをもつ人が多いと思いますが、インド産のシルクなどは、精錬していないものですと、やはり茶色味がかったものが多いです。それは、マユそのものの色ということです。
野蚕シルクの特徴
茶色味ががったマユは、それに含まれるタンニンがセリシンを溶けにくくしたり、無機物やロウ分が多いため、煮出したマユから糸をとって生糸にすることは、簡単ではありません。
マユ自体の厚さや硬さに個体差があり、家蚕のように整った糸を効率よく取ることは難しく、糸の太さが不揃いで、強度や伸びさすさもバラバラだったりするのも特徴的です。
一方でそれが、野蚕独特の光沢感や風合い与えると言えます。
野蚕シルクが染まりづらいと言われる理由としては、シルク糸の主要成分であるフィブロインを構成するアミノ酸の組成が家蚕シルクと異なっており、また吸湿性(物質が水分を吸収、あるいは吸着する性質)が低く、表面の構造が緻密であるがゆえに染料が浸透しにくいことが挙げられます。
現在では、シルクのように昆虫のマユから得た繊維というのは、人類が消費している繊維のなかにおいて、1%にもなりません。
人類は5000年以上も前から、マユを利用して糸をつくることを知っていたようですが、現代においては貴重で最高の繊維とされているシルクの価値を再考してみる必要があるように思います。
参考文献:染織α1990年11月号