伊勢型紙,絣柄の風合いが出るように彫られたもの

捺染(プリント)とは?シルクスクリーンの歴史と活用方法


捺染なっせん(プリント)とは、模様を抜いた型紙やシルクスクリーン、彫刻ちょうこくをいれたローラーなどを使って、合成染料を混ぜた糊料こりょう色糊いろのり)を布地にプリントして模様を出すことを意味します。

色糊いろのりは、糊の防染力ぼうせんりょくと染料の着色力を合わせもつ材料なので、使い方によってはさまざまは表現をすることができます。

捺染なっせんの作業によく使用されるシルクスクリーンは、ヨーロッパにおける型染めの技法として生まれたもので、ずっと後になって工業や商業、芸術の文野へ進出するまで、捺染なっせんによる印刷法だけあって、長い間染色の分野で育ってきました。

合成染料に発明によって、初めて可能になった染色技法でもあり、日本においては合成染料が最初に輸入されたのは明治3年(1870年)ですが、実際に捺染なっせんが始まったのは、明治17年頃(1884年)と考えられています。

OSCAL 2017 silkscreen printed materials 28

シルクスクリーン,silkscreen,Manolis Angelakis, CC BY 4.0, via Wikimedia Commons,Link

シルクスクリーンの歴史

シルクスクリーンの名前が初めて登場するのは、1907年のことです。

イギリス人のサミュエル・シモンが、枠に張った絹のスクリーンへ精版せいはんし、その印刷法の特許を得たことからこの名称になりました。

ただ、彼が発明したころには、すでにスクリーンによる捺染なっせん法がヨーロッパ各地でさまざまな形で存在していたと考えることができ、シルクスクリーンの技法そのものの発生が、彼の発明によって始まったとすることはできないのです。

実際に、フランスのリヨン地方では、1880年ごろからシルクスクリーンのような型染めが行われていたのです。

それよりも古く、イギリスやヨーロッパの染色業界が注目していたのが、日本の型紙でした。

日本人の繊細な技術によって、江戸時代には完成の粋に達していた型染めがヨーロッパの人々を魅了していたのは間違いありませんが、破れにくく堅牢けんろうな和紙の製法や、型を彫る技術に大きな壁があり、ヨーロッパでは定着しづらい一面を持っていました。

日本の型紙が敬遠されたことが、シルクスクリーンの発生に影響を与えたのは間違いありませんが、元和げんな年間(1615年〜1624年)に発生したとも言われる「糸入れ型紙」が、1850年ごろロンドンで公表されたのち、ヨーロッパの人々に直接的な影響を与えたと考えられます。

糸入れ型紙とは

糸入れ型紙は、柄を彫った部分が型紙から脱落しないように絹糸で型紙を補強したものです。

彫り抜いた空間が多すぎて、のりを置いて染める時に動いてしまって柄が歪んだりすることも防ぐ効果もあります。

最終的に彫った部分を支える不要な糸「つり」を取り除くことで、染めが細部に行き渡る型紙になるのです。

糸入れはの作業は、細かくて繊細な図案の型紙にとっては欠かせない工程でしたが、非常に難しく手間がかかりました。糸入れに代用される作業が考えられて、生まれたのが紗張しゃばりです。

紗張しゃばりは、絹糸で目が荒く(すきまがある)平織りされたてできたしゃに、型紙を合わせて、その上から型紙と紗がくっつくようにうるし(現在だとカシューがよく使われる)を塗ります。

こうすることで、ある程度型紙を補強できますが、極めて細かい模様である場合には、糸入れ型紙の代用とはなりません。

型紙を使った捺染(なっせん)

柿渋かきしぶを塗った渋紙しぶがみを使った捺染は、手捺染てなっせんをするような友禅ゆうぜんや沖縄の紅型びんがたなどにおいては現在でも使われていますが、ほとんどがシルクスクリーンに取って替わられています。

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型紙は、彫刻刀で模様を切り抜いて、紙の補強のために糸や細かいしゃうるし合成漆ごうせいうるし(カシュー)でくっつけます。型紙は、昔から伊勢の白子しろこ(鈴鹿市)が、伊勢型紙いせかたがみの産地として有名です。

伊勢型紙,絣柄の風合いが出るように彫られたもの

伊勢型紙,絣柄の風合いが出るように彫られたもの

ただ、着物の需要が減ったことによって、型紙を彫る人がほとんどいなくなりました。現在では、技術を保存する方向で、技術保存会が立ち上がっています。

室内装飾、型紙LED照明、形紙あかりなどと、型紙をつかった新しい取り組みが進んでいるようです。

参照:新しい取り組み|伊勢型紙協同組合

さまざまな捺染技法

直接捺染法

染料や糊料、助剤などを混ぜてつくる捺染糊を使って、模様を直接プリントする方法で、シルクスクリーンや彫刻されたローラーによって模様を出します。

捺染に使用する色糊いろのりは、澱粉でんぷん、米粉、天然ガムなど、粘土があり水に溶け、流して落とすことができるもので作ったのりの中に合成染料入れてをつくります。

色糊を布につけてから、乾燥し、蒸気を使って蒸すことで、色糊中の合成染料が糊の中から布に移り、着色できるのです。

色糊から布に染料を移すため、写し染うつしぞめとも言われます。その後、水洗いをして不要になった糊を洗い流します。

大正、昭和にかけて染めものを川で洗っていた光景は、この水洗いの工程です。

捺染用のシルクスクリーンは、光を当てると水に溶けなくなるような感光材かんこうざいを、細かい網目のしゃ一面に薄くぬり、写真技術を利用して模様を色別に分解して焼き付ける場合もあります。

ローラーで捺染する場合(ローラー捺染)は、絵柄の型の彫られたローラーに捺染のりをのせ、まわしながら生地に定着させます。

ローラー捺染用のロールは、多くが銅製で、直径13センチ前後の太さです。丸い筒の表面に彫刻することで、柄になるところは凹みになり、そこに顔料が入り、それを生地に押し付けることによって、柄がプリントされます。

防染法

あらかじめ防染糊で模様をプリントしてから染色することで、糊で伏せたところが染まらないように柄を出す方法です。

防染糊には、活性炭かっせいたん撥水剤はっすいざいを使って染料の浸透や吸収を防ぐ方法と、染料を分解する還元剤かんげんざいなどを使う場合があります。

防染糊の中に染料を加えて、その部分を染める着色防染ちゃくしょくぼうせんという方法もあります。

防染の一種で、日本独自の「注染ちゅうせん」という技法があります。ゆかたや手ぬぐい、風呂敷、のれんなどに対して主に使われる技法です。

布を端から90センチずつ、染めようとする模様以外のところに、型紙あるいはシルクスクリーンを使って防染糊を置いて、つぎに折り重ねては同じ型紙で糊を置くという作業を繰り返します。

2反(一反は長さ約10.6m、巾が約30㎝)を同時に染めるので、布は20枚前後に折り重ねられます。これを注染台にのせて、模様になる部分に上から染液を注ぎこんで同じ色の部分を一度に染め上げます。

その他に、手工芸的な防染方法としては、ろうを使って防染する、ろうけつ染め(バディック、インド更紗、ジャワ更紗など)があります。

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抜染法(ばっせんほう)

布を先に無地で染めておき、染料を分解する抜染剤(還元剤、酸化剤など)を混ぜた糊をプリントして色を抜く方法を抜染といいます。

型付浸染法(かたづけしんぜんほう)

媒染ばいせん染料やナフトール染料のように、二種類の薬剤が繊維の中で科学反応して染まる場合に使われる方法で、ひとつの薬剤でプリントしておき、そのあとにもうひとつの薬剤の溶液につけて、模様の部分のみ発色させます。

顔料樹脂捺染法(がんりょうじゅしなっせんほう)

顔料(ピグメント)は水にも油にも溶けない色素で、そのままでは繊維に定着しないので、接着剤を混ぜて、繊維の表面にプリントし、加熱して固める方法がとられます。

古くは友禅染めがこの手法をとっています。接着剤として豆汁ごじるをつかい(大豆を砕いて水と混ぜたもの)、顔料と混ぜて色糊にし、布に張って炭火にかざしながら模様を描くと、豆汁の中の水溶性タンパクが熱で固まって、顔料が布地にくっつきます。

顔料は、無機顔料と有機顔料に分けられます。

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無機顔料は、弁柄べんがら緑青ろくしょう群青ぐんじょうなど天然の鉱物を粉末にしたものです。(現在は、ほとんどが人造のもの)

有機顔料はほとんどが合成品で、種類はさまざまです。

顔料に合成樹脂液を練り合わせ、水や油を加えて粘り具合を調節しながら色糊をつくります。顔料樹脂染料をプリントしたあと、高温で数分間加熱すると合成樹脂は固まって、顔料とともに繊維に定着します。

転写捺染法

模様を印刷した転写紙をつくって、転写紙と布地を合わせて、10数秒、200度ほどの高温で圧力を加えて、染料を布地に転写する方法です。

【参考文献】『月刊染織α 1981年12月No.9』


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